
口コミで凹んだ時の漢方
口コミで凹んだ時の漢方
投稿者の気持ちはお察ししますし、身から出た錆とはいえ、悪い口コミは凹みます。最初の1週間くらいは連日頭をよぎり、時間が経っても消えることがないので何かの拍子に目に入りブルーな気持ちになります。真摯に非を認め、反省をして改善しようとポジティブに捉える努力はしますが、どうしてもネガティブな感情に引っ張られがちです。
きつい口コミに対して凡人の私は感情的になり、つい口答えをしたくなってしまいます。そんな時に私は神様、仏様、先人の力を頼ります。
「祓いたまえ、清めたまえ」と唱え、負の感情の連鎖をブロックして冷静になります。
「『目には目を』では世界が盲目になってしまう」というガンジーの言葉を唱え、報復感情で視野狭窄となることを回避します。
「口中の斧」とお釈迦様の言葉を唱え、トゲのある言葉は身を亡ぼすことを肝に銘じます。
繰り返すうちに少しずつ落ち着いてきます。未熟な私は結構時間を要しますが・・・。
心の動揺が落ち着いた所で、
クレームの中から宝を見つける作業に入ります。私は漢方医なのでこの作業を「修治」と呼んでいます。修治とは薬草から毒を抜いて薬にする作業です。猛毒のトリカブトが修治によって強力な強心剤になることをイメージします。
あるいは痛いところを突いた口コミは鍼灸でいうところの「阿是穴」ととらえることもできます。痛いところは良い治療点でもあるのです。
改善点を明確にするために口コミにはできるだけ返信しようと思います。改善点を抽出できた口コミは薬となります。まさに「良薬は口に苦し」の如くです。過去の返信にも時々目を通し、臥薪嘗胆の気持ちで改善点が達成できているか確認します。
陰極まれば陽となると言います。落ちたら上がるのみです。また闇を浄化できるのは光です。丁寧で親切な診察を繰り返す事で負の感情も次第に薄まっていきます。
私の好きな漢方、鍼灸、バッチフラワーの知恵を借りることもあります。
漢方薬では理気剤や柴胡剤がよいでしょうか。「物言わぬは腹膨れるわざ」と言います。言いたいことが言えずにモンモンとして喉のつかえる梅核気には半夏厚朴湯。気が晴れずウツウツした時には香蘇散。イライラのループで眠れない時は抑肝散など。頭にきてカリカリする時は女神散も良いかもしれません。正義の女神に判断を託すのです。
ツボでは胸にある膻中が気に作用するとされ、胸のつかえを通します。手首の内関は動悸や胸の痛みに。悲しくてやる気が出ない時は橈骨動脈の上の太淵をマッサージしながら深呼吸をすると気が巡ります。小指の付け根の後渓はイライラで肩や背中が凝る時に有効です。指圧で十分ですが、お灸も良いです。私は合掌の姿勢で手首回りのお灸をするのが好きです。お祈りの効果もあって、気の巡りがさらに良くなりそうな気がしています。
バッチフラワーではウィロウ(柳)は被害者意識を受け流し、ホリー(柊)は憎しみを愛に変え、スターオブベツレヘムはトラウマに有効とされます。またマスタードは鬱を払い、ゲンチアナは元気を出すとされます。口コミで凹んだ時に私は、通勤途中の公園にある大きな柳の木を見て嫌な気持ちを受け流し、近所のお庭の柊南天を見て怒りを滅却し難を転じます。岐阜市のマンホールの籠目文様をスターオブベツレヘムに見立てて、トラウマから心をプロテクトします。朝ごはんに芥子たっぷりの納豆ご飯を食べて欝々した気分を払拭し、夜にはなじみの酒場でゲンチアナの入ったスーズを飲んで元気を出します。
口コミでダメージを受けた時の私の対処法を紹介しました。負の感情を排除して冷静になり、非を認めて改める手助けになれば幸いです。
もっとも、漢方の神髄は「治未病」にあります。気を引き締め、日々丁寧な診察を心掛けてクレームを生み出さないことが何より大切なのは言うまでもありません。
最後にお守りとしてセーマン・ドーマンを載せておきます。三重県の海女さんの魔除けです。一筆書きのできる五芒星は無事に帰ることを、網目の九字は魔物を見張る意味があるとされます。私は一筆書きのできる五芒星からは「因果応報」、網目状の九字からは「天網恢恢疎にして漏らさず」をイメージします。良いことも悪いことも自分が招いた結果であり、お天道様は見てくれているということです。善行を積むことでセーマン・ドーマンが強化され、魔を退ける力が強くなると信じて、今日も仕事に向かいます。

書いた人
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学