月の満ち欠けと東洋医学:古代から現代へ
月の満ち欠けと東洋医学
黄帝内経
月を眺めていたら、ふと馴染みの鍼灸師さんとの会話を思い出しました。
仕事が忙しく、疲れ気味の状態で針を打ってもらった際に、
「今日は新月なので軽めの針にしておきました。」と
その鍼灸師さんがポツリとつぶやいたのです。
何気ないこの一言に私は「ムムッ、おぬしできるな。」と心の中でうなりました。
東洋医学の古典「黄帝内経」には月の満ち欠けと治療についての記載があります。
簡単に要約すると、人間は満月の時には「実」に傾き、新月の時には「虚」に傾くので、治療する際は気を付けなさいと書いてあります。
この鍼灸師さんは虚に傾きやすい新月の時期である事を考慮し、弱った私の気を漏らさない様に繊細な針をして、なおかつ無理をする時期ではないと優しくアドバイスしている訳です。
この会話の前までは日常診療で月齢に注意をしたことはありませんでした。しかし影響を受けやすい私はその後に月齢入りのカレンダーを購入して時々眺めています。
周期療法
女性の月経周期は月の満ち欠けに例えられる事が多いです。不妊に力を入れている漢方薬局では月経周期を月経期、卵胞期、排卵期、黄体期に分けてそれぞれの時期に応じた漢方処方をする周期療法を行ったりするようです。
月経周期に関連した不調に関して、私の日常臨床レベルでは厳密な周期療法は行えていません。
現時点では、実証の人は月経期(満月?)にイライラ、月経痛、体重増加、便秘、皮膚のトラブルなどが起きやすいので駆瘀血剤や瀉剤を使用してデトックスをし、虚証の人は排卵期(新月?)に貧血、冷え、倦怠感、排卵痛が出やすいので補血剤で補う配慮はしています。
月のウサギとカエルとキンモクセイ
月のウサギは日本ではお餅をついていますが、中国では薬草をついて不老不死の薬を作っているそうです。
また中国では月にはウサギの他にガマガエルが住んでおり、さらに真ん中に大きなキンモクセイが生えていて、満月の金色は満開のキンモクセイの色なんだとか。
月のウサギとカエルとキンモクセイの絵が描かれた「黄帝蝦蟇経」という古い中国の医学書があります。オリジナルの中国版は散逸し、日本に渡った写本が残っています。
月の満ち欠け、月齢によって使用してはならないツボが示されています。特定の時間、時期によって使用するツボを決定する時間配穴法の一種です。
ちなみに岐阜県各務原市川島にある「内藤記念くすり博物館」にも黄帝蝦蟇経の写しが所蔵されています。内藤記念くすり博物館は岐阜の隠れたおすすめスポットです。
画像引用:
『黄帝蝦蟇経』(京都大学附属図書館所蔵)
URL:
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00002402#?c=0&m=0&s=0&cv=0&r=0&xywh=-6741%2C-208%2C19096%2C4160
漢方以外でも
最近月がブームになっているようです。占いコーナーでは月星座が内的、私的な感情や傾向がわかると人気です。月のリズムを生活に取り入れ、ダイエットやヨガをしたりするのも何となくオシャレです。
月の潮汐力によるバイオタイド理論も興味深く、最近ではクサフグが大潮の日に産卵するのに関与する遺伝子を名古屋大学のチームが発見しました。
月面探査も各国がしのぎを削っています。中国の嫦娥(じょうが)計画、アメリカのアルテミス計画はどちらも月の女神の名前です。日本も過去に月周回衛星「かぐや」を打ち上げました。インドのチャンドラヤーン(月の舟)3号が月面着陸に成功したのも記憶に新しいです。
中秋の名月に関連して月の満ち欠けと漢方についてまとめてみました。この記事は満月の光を浴びながら夜更かしして書きました。