漢方と易経の深い関係|東洋医学の奥深き世界へ
漢方に対する姿勢 天沢履・火山旅
漢方に真剣に取り組もうと決意した日のことを書いてみようと思う。ややスピリチュアルな内容になるので、興味のある人はご一読ください。
漢方の勉強を始めた当初は外科の勤務医で多忙だった。漢方にあまり時間を割くことはできず、片手間の自己流で身につくのか不安を感じていた。その当時、東洋思想にも関心があり周易の勉強もしていた。思うところあって、東洋医学が身につくかを占断することとした。私にとっては賭けだった。悪い卦がでたら中途半端よりはいっそ諦めてしまおうとも思っていた。
天沢履。虎の尾を履むも人をくらわず。亨る。
湯液治療が身につくかを占った所、天沢履を得た。履とは履み行うこと。「漢方をやると決めたなら、コツコツ経験を積み、責任をもって履行せよ」というメッセージだと解釈した。履むべき道は平坦なものではなく、虎の尾を履むように険しいものであるが通れると易卦は言ってくれている。千里の道も一歩からと自分を鼓舞した。
履は礼儀の卦とも言われる。父親(師匠)に末娘(弟子)が付いていく象である。親に対する礼儀と同時に末娘の可愛らしさも大切となる。この卦を得てから、「親しき中にも礼儀あり」の姿勢で師匠や先輩に積極的にアタックして教えを乞うように心がけた。自分の書いた論文と履歴書を持って師匠に挨拶に伺ったことを思い出す。
眇(すがめ)にして視、跛(あしなえ)にして履む。虎の尾を履む。人をくらう。凶。という一節がある。片目なのに見えると言い、足が悪いのに歩けると言って道を踏み外すと虎に食われてしまう。出来ないことを出来ると言ってはいけない。自分の漢方の実力は未熟で天狗になればしっぺ返しを食うことを肝に銘じた。謙虚でなければ。
天沢履。虎の尾を履むも人をくらわず。亨る。
漢方を修めることは虎の尾を履むように困難なことだが、先達や患者さんに教えを乞い、謙虚に礼儀を持って一歩ずつ履み行えば、食われることなく、成就する。そう信じている。
漢方を究めることで、虎の尾を履むような困難症例にも食われず立ち向かえるようになりたいとも思う。
火山旅。旅は少しく亨る。旅は貞なれば吉なり。
鍼灸治療について占うと火山旅を得た。
この卦は「私にとって鍼灸は人生をかけた旅である」と教えてくれた。このイメージをとても気に入っている。旅と言っても物見遊山のリゾート旅行ではない。仏教を伝えるために難破、失明してもあきらめなかった鑑真和上の航海や経典を求めた三蔵法師の天竺への冒険をイメージする。
自分を試す一人旅もよいが、旅は道ずれ世は情けとも言う。三蔵法師に孫悟空、沙悟浄、猪八戒がいたように、困難な旅には良い仲間がいると心強い。
東洋医学の世界を同じ志を持った仲間と思う存分冒険したいと思う。寄り道、脇道、回り道こそが旅の醍醐味。
トラブルと遊べ ヤンチャ・ボーイ!
東洋医学を習得することは虎の尾を履み、冒険の旅に出るような大変な事。しかし謙虚に礼儀をもって教えを乞い、良い仲間を得ることができれば願いは叶う。そう信じて日々の臨床を行っている。
書いた人
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学