“2024年辰年特集:竜宮城の伝説と孫思邈(そんしばく)の漢方医学との関係
2024年は辰年です。辰年にちなんで竜宮城に関連した漢方のお話を一つ紹介します。
中国の隋・唐の時代に孫思邈(そんしばく)という人物がいました。医薬学のみでなく、仙術にも精通した名道士でした。
朝廷からの度重なる要請にも仕官せず在野を貫いたことでも有名です。
医学系の著書に「千金方」があり、書名には人命は千金に値するという意味が込められています。
孫思邈と竜宮にまつわる逸話がいくつかあり、その内の一つを紹介します。
昔々、竜王の王子が小さな白蛇に姿を変えて海で遊んでいたところ、悪童達に見つかって、いじめられてしまいました。そこに孫思邈が通りかかり、白蛇を助けて海に逃がしてやりました。
竜宮城に逃げ帰った王子は竜王にいきさつを説明しました。竜王は感謝し、夜叉を使いに出して孫思邈を竜宮城に招待することにしました。使いの夜叉は孫思邈を背中に乗せて竜宮城に連れて行きました。
竜王は孫思邈を歓迎し、盛大な宴を開きました。そして孫思邈が帰る際にお礼に財宝を贈ろうとしましたが、孫思邈はこれを固辞しました。
竜王は何を以て報いようかと考えた末、竜宮の薬方30首からなる「海上仙方」を与え、済世救民に役立てるように言いました。
孫思邈は喜んで「海上仙方」を受け取り、竜宮城を去りました。そして「海上仙方」を使い多くの病人を救いました。後に「千金方」を著した時もこの処方を参考にしたとの事。めでたし、めでたし。
孫思邈が竜宮の処方を得た話のバリエーションはいくつかある様ですが、この話は浦島太郎にそっくりですよね。
タイやヒラメの舞い踊りを楽しんで、玉手箱でおじいさんにされた浦島太郎よりも、孫思邈の方が一枚も二枚も上手であった様です。
「千金方」に記された処方の一つ、当帰湯は保険適用のエキス製剤として収載されています。心腹痛に処方され、肋間神経痛や膵炎への使用の報告などがあります。
また孫思邈が住んだ建物の名前が屠蘇庵で、お正月に飲むお屠蘇(とそ)を広めたのも孫思邈といわれています。
2024年、辰年にちなんで、竜宮城と漢方のお話でした。
参考文献
山崎宏,「初唐の道士孫思邈について」, 立正大学文学部論叢, 50, p. 19-40, 1974-09-10.
漢方百物語 (中國傳奇シリーズ 中醫趣談民族傳説 5) , 田中 寛之 (翻訳), あかし出版 , 2021.
書いた人
岐阜市 加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学