傷寒と温病~インフルエンザから扁桃炎まで、漢方で風邪を治す
風邪/インフルエンザへの漢方
漢方医は風邪を治せたら一人前と言われます。たかが風邪と侮るなかれ、風邪は万病の元とも言われ、様々なバリエーションがあり奥が深いです。体力、症状によって個別に細かく治療薬を選択でき、漢方の得意分野です。
傷寒
インフルエンザ治療を例に挙げてみます。インフルエンザは東洋医学では傷寒に分類されます。傷寒とは寒に傷つけられたということで、寒気を訴える感染症の総称です。
傷寒論という前漢時代(三国志の時代、日本でいうと弥生時代)の書物に非常に詳しく記載されています。傷寒論は漢方の聖典として位置づけられており、現在日本で使用されるエキス製剤の多くは出典をこの書物に有します。
風邪薬として有名な葛根湯も傷寒論に記載されています。2000年近くの間ずっと使われている薬ってすごいですよね。
西洋医学ではインフルエンザの診断がつけば、基本的に抗ウイルス薬と解熱鎮痛剤で同一の治療をします。東洋医学では、病気に対する抵抗力や病気の進行具合によって、同じインフルエンザに対しても治療方法が異なります。
同じ病因に対して、患者ごとに反応が異なり、それに対する治療法も異なることを同病異治といいます。
傷寒では高熱があっても自覚的に寒気を感じるため、治療としては温める方向の治療になります。傷寒の邪は最初に体の表面、特にうなじのあたりを中心とした体の背面から侵入すると考えます。
まずは悪寒、悪風というゾクゾクした感覚から始まります。病邪に対する反応が強いと、強い悪寒、関節痛があり、麻黄湯が適応します。中等度の場合は背中のこわばりなどがあり、葛根湯が適応します。
抗病反応が弱い場合は、軽い寒気に加えて、少し汗ばんだりします。この場合は桂枝湯が適応します。
これらの薬剤は発表解表剤と言い、発汗させて病邪を体表から排出させる薬剤で、それぞれに薬効の強弱があります。この段階で適切な投薬を行い、病邪が排出されれば治癒しますが、うまくいかないと次の段階に進みます。
体の内部に病邪が侵入すると、口が苦い、粘る、食指不振などの消化器症状が現れ、熱も出たり下がったりを繰り返します。この段階は小柴胡湯を中心とした処方が適応します。
解毒中和剤といい、胃薬の入った解熱剤という雰囲気です。さらに奥に入ると、強い便秘をしたり、熱も夕方に向けて高熱が出たり、うわごとを言ったり重症化します。
白虎湯や大承気湯などの清熱、攻下剤が適応しますが、この段階になると点滴など現代医学の併用が必須であると思われます。
さらに病状が進むと、病気に対しての抵抗力がなくなり、ずっと寝ているなど、活気が落ちて元気がないことが前面に出ます。この場合は麻黄附子細辛湯や真武湯などが対応します。
高齢者は病気に対する抵抗力が衰えているため、初めからこれらの薬剤が必要になる場合も少なくありません。どんな風邪にも葛根湯というわけにはいかないのです。
またこれらの症状は連続したものであり、複数の症状が併存する場合は薬剤を併用したりもします。
温病
傷寒に対して寒気を伴わない熱性の感染症は温病と呼ばれます。
例えば扁桃炎で高熱で、喉が痛くうなされるという症状はこちらの部類に入ります。温病には傷寒とは異なり、冷やす方向の治療を行います。
温病論は比較的新しく、日本では傷寒論ほど研究、定着していません。
温病に対する代表処方である銀翹散は保険で使用できるエキス製剤はありません。清熱作用を持ついくつかのエキス製剤を併用して近い方意にして対応します。
参蘇飲や五積散と呼ばれる処方があります。特徴は多味であること。つまり構成される生薬が非常に多いことです。多方面の症状に効くためいわゆる総合感冒薬として有効です。
しかし一つずつの作用は弱いため、症状に応じて薬剤を加味加減してより効果を高めることも大切です。
長引く風邪や病後の体力低下、その他体質改善による感冒の予防なども漢方薬の得意分野です。
胃腸を整えて免疫力を上げたり、抗生物質とは異なる機序で炎症を抑えたりする効果があります。
すっきりしない咳や疲労には補中益気湯や竹筎温胆湯、繰り返す鼻炎や扁桃炎には荊芥連翹湯などが使用されます。