がん治療と漢方薬の関係、漢方でがん治療をサポートする方法
がん治療
乳腺科、消化器外科で勤務しておりましたのでがん治療に対して漢方薬を使用してきました。がんに対する漢方治療には大きく分けて以下の場合があると考えます。
①がん治療の副作用軽減 ②がんの進行、再発の抑制 ③緩和治療 それぞれについて説明をしてみます。
- がん治療の副作用の軽減について
消化器手術後には食欲の低下や通過障害が良く起こります。上腹部の症状に関しては六君子湯や茯苓飲合半夏厚朴湯が、また下腹部の症状や術後の腸閉塞には大建中湯が良く使用されます。
六君子湯や大建中湯は頻用されており、薬理作用に対する基礎研究も進んでいます。これらの薬剤には朝鮮人参が含まれており、体力、免疫力を改善させますので、最近話題のフレイルの予防にも寄与します。
また体力がある場合は駆お血剤や清熱剤の併用も考慮します。血流を改善し炎症を抑える処方です。
桂枝茯苓丸、通導散、茵蔯蒿湯などがあります。術後の血腫の改善、癒着予防、便秘、黄疸の改善などに使用されます。また漢方ではがんをお血、熱と考えますのでがんの再発抑制も期待して処方を行います。
術後には
乳がんの術後によくある症状としてリンパ浮腫があります。漢方では利水剤、駆お血剤という水はけ、血流を改善する薬剤が使用されます。浮腫んだ腕を正常な太さに戻す事は困難ですが、漢方内服によって自覚的に腕が軽くなったり、蜂窩織炎の頻度が軽減したりすることは良く経験します。
具体的には越婢加朮湯、麻杏ヨク甘湯、五苓散、防己黄耆湯などの利水薬や、桂枝茯苓丸、通導散などの駆お血剤が使用されます。これらの薬剤に含まれる生薬のヨクイニンや黄耆には抗がん作用があると報告されています。
またがんをお血と考えるため駆お血剤はがん治療にも使用されています。リンパ浮腫の改善のためのみならず、がん再発抑制も目指して積極的に漢方薬が投与されてもよいのではないかと思います。
術後の創部痛、瘢痕については生命に関わる病態ではないため、外科医は軽視していると思います。私自身もそうでした。しかし疼痛は長期にわたり、天気の悪い日や、寒い季節にはQOLの低下につながります。また鍼灸治療を勉強し始めてから、手術創が経絡の流れに影響を与えることも知りました。
これらの症状に手術瘢痕部に対するステロイド薬の注射や鍼灸治療が有効な場合があります。また乳がん術後の胸部痛には手軽な自己治療として耳つぼの肩、乳房領域の刺激、マッサージも有効で、興味がある方には指導をして来ました。あきらめずに色々試す事が大切だと思います。
抗がん剤の使用中には
抗がん剤使用中の食欲不振、口内炎、下痢、好中球減少症、末梢神経障害などに対して漢方薬が使用可能です。漢方薬の併用で細やかな対応が可能になると思います。単剤で効果が不十分な際は合剤とすることも大切です。例えば食欲不振に対して補中益気湯のみで無効な場合にも、類似薬の六君子湯を併用することで食欲が出たりします。
乳がんに対するホルモン治療による関節痛や更年期様症状にも漢方薬は有効です。関節痛は温めると改善する場合と冷やすと改善する場合があります。麻杏ヨク甘湯はどちらの病態にも使用できるので個人的には使いやすいと思います。
また更年期様症状にはセルフメディケーションとしてツボの指圧も有効と考え興味のある方には指導をしてきました。ホットフラッシュ、疲れ目、イライラ、などは頻出する症状で、太衝、足臨泣、湧泉、百会に反応があることが多いです。
- がんの進行、再発の抑制
体力がある状態では瀉剤を用いて、がん細胞を排出する治療を行います。
防風通聖散、茵蔯蒿湯、通導散、桂枝茯苓丸などの清熱瀉下薬、駆お血剤が使用されます。また体力が低下した状態では免疫力を上げてがん細胞の増殖を抑制するために補剤が使用されます。
六君子湯、大建中湯、十全大補湯や補中益気湯が有名です。がんの漢方というと免疫力を上げる補剤一辺倒となりがちです。
しかし実証の場合には火に油を注ぐ結果となる場合があります。消化器術後に大建中湯が頻用されていましたが、実証患者はかえってのぼせたりして体調が悪化する場合があります。瀉剤と補剤のバランスの見極めが大切です。
- 緩和治療
終末期が近づくにつれ、食指不振、倦怠感、むくみ、呼吸苦、不眠などの様々な症状が出現します。これらの症状に漢方治療を併用することで元気な時間が長く続き、最期に向けて軟着陸ができる印象があります。
例えば西洋医学では終末期にステロイド薬が使用されますが、漢方薬では四逆湯(エキス製剤では人参湯+真武湯)を併用することで相乗効果が期待できます。
しかし終末期が近づくにつれて内服が困難となってきます。内服ができないと湯液治療は困難ですが、このタイミングでも鍼灸治療は可能です。内服できない患者に何かできないかと考えたのが、私が鍼灸治療を勉強し始めたきっかけでもあります。
始めの頃は書籍で調べて、下肢のむくみに三陰交、水分、失眠穴、腹満に神門、足三里、へそ周囲の反応点、むかつきに公孫などを病棟回診の時に接触針や指圧で軽い刺激をしていました。
つたない治療ではありましたが、気持ちが良いと喜ばれたことを覚えています。看護師や家族の方もツボを共有できるとよい看護ができると思います。