春の元気をもらおう!モクレンとシンイ
モクレンとシンイ
木曽三川公園にきれいなモクレン(木蓮)の花が咲いていました。木に咲く蓮(ハス)に例えられるように高貴な美しさがあります。
大きくて毛が生えたつぼみは繭(まゆ)のようで、太陽に向かって花開く姿は羽化した蝶を思わせます。
あるいは開こうとする白い花自体が妖精の卵にも見えます。モクレンを読んだこんな短歌がありました。
白木蓮の 卵いよいよ 膨らみて 大地の祭り 始まらんとす 松村 由利子
辛夷(シンイ)という生薬があります。日本では辛夷はコブシをさしますが、中国ではモクレンのことを辛夷と呼びます。生薬としては開花前のモクレンのつぼみを乾燥させたものを用います。
つぼみの形が筆先を思わせるので木筆花、あるいは春を告げる花で望春花、その美しさから玉蘭とも呼ばれます。
辛夷の効能
辛夷の効能は目や鼻の通りを良くし、頭痛を抑え、体を温めて陽気を高めます。まさに花粉症や寒暖差による頭痛に悩まされる春にぴったりの生薬です。
エキス製剤では葛根湯加川芎辛夷、辛夷清肺湯に配合されています。葛根湯加川芎辛夷は体を温める葛根湯に気血を巡らせる川芎を配合し、さらに辛夷で目や鼻の通りを改善し発散させる薬です。
どんよりした頭痛や花粉症をすっきりさせてくれます。辛夷清肺湯は鼻の通りを良くする効能は同じですが、熱や炎症を抑える配合になっているので、緑色の鼻が出るような熱っぽい炎症のある鼻炎に使用されます。
清肺湯という名前の似た別の処方があり紛らわしいので要注意です。ちなみに辛夷清肺湯はチクナイン、清肺湯はダスモックという名前で市販されています。
花蕾由来の生薬
花蕾由来の生薬は芳香も効果に関わるとして重視されます。モクレンは柑橘系の爽やかな香りがします。
エキス製剤では香りが飛んでしまっていることもありますが、葛根湯加川芎辛夷を飲むときはお湯に溶かして香りを感じ、頭の中で、花開こうとするモクレンをイメージしながら飲むと鼻の通りがさらに良くなるかもしれません。
辛夷の名前の由来
辛夷の名前の由来は諸説あるようですが、有名なものを紹介します。
昔中国のある人が長年治らなかった鼻炎を異国の地の植物で治療してもらい回復した。その人は喜びその植物を自国へ持ち帰った。
その後その植物の名前を訪ねられたところ、辛亥年(昔の年号の数え方)に夷人(外国人)から譲り受けた木ということでシンイと呼ぶようになったという話があります1)。
また本草綱目という有名な薬草の本には夷は荑であり、その花蕾の形が荑(つばな。茅の若芽。)ににて、味は辛(スパイシーくらいか)であるため辛夷と名付けられたともあります1)。
モクレンから春の元気をもらいましょう。目で楽しみ、香りを嗅いで、さらに味わってもよしです。韓国ではモクレンの花茶が人気とのこと。春を感じるとてもきれいなお茶です。2)
モクレンには肌や髪をきれいにする効能もあるそうですよ。
梁晨千鶴. 東方薬草新書. 源草社 2022.
コウ静子. 季節に寄り添う韓国茶. グラフィック社. 2020