二日酔いの漢方 その② ~アルコールと柴胡剤~
二日酔い体験から学ぶ小柴胡湯の知恵
歓迎会がありました。
新人達の元気さにつられてつい飲み過ぎてしまい、翌日は二日酔いに苦しみました。
しかし私は転んでもただでは起きません。何でも漢方の勉強にします。
二日酔いを通して、小柴胡湯の条文を体験し理解できたのでコラムにしてみます。
小柴胡湯は少陽病(少しこじれた熱性疾患)の代表処方で、かつては慢性肝炎に良く処方されました。最近ではコロナ禍で小柴胡湯加桔梗石膏が有名となりました。
傷寒論
古典の条文と二日酔いの私の症状を併記してみます。
傷寒論の少陽病の条文に「口苦、咽乾、目眩」という記載があります。
歓迎会でしたたか飲んだ私は、明け方に喉が渇いて目が覚め(咽乾)、水を飲んでも口が苦く、粘つきが取れません(口苦)。鏡で舌をみると白く厚い苔が付いています。フラフラめまいもします(目眩)。
小柴胡湯の条文に「胸脇苦満、心煩、小便不利」という記載もあります。
- 二日酔いの私はみぞおちから脇腹にかけてドーンと張って苦しく、食事も取れそうにありません。⇒(胸脇苦満)
- 酔っ払ってしゃべった偉そうな武勇伝が恥ずかしく、嫁さんに叱られることを考えるとどんよりと精神的にも落ち込みます。⇒(心煩)
- 水を飲んでもおしっこがあまり出ません。⇒(小便不利)
いつもの二日酔いならば、水を飲んで寝ていれば回復をするので布団に潜り込みました。しかし今回は何だか苦しくて眠れません。二日酔いで頭痛のする頭にまた傷寒論の一節がよみがえります。
「一身ことごとく重く、転側すべからざる証」
体がだる重く、苦しくて寝ていられない状態。小柴胡湯より少し重症な状態で柴胡加竜骨牡蛎湯の条文です。
柴胡加竜骨牡蛎湯は最近ではストレスによる適応障害に良く処方されますが、原典ではうわごとを言ったり、横になることも出来ないような重篤な急性病に処方されました。
二日酔いで転側出来なかった私も柴胡加竜骨牡蛎湯を内服して何とか眠ることができました。
二日酔いの苦しみを通して、少陽病、柴胡剤の条文および有効性を実体験できました。身をもって経験した処方は使い方がうまくなります。明日からの臨床に生かせそうです。
今回の私とは別ですが、柴胡桂枝湯には「心腹にわかに痛む証」という記載があります。
アルコール性膵炎で良く腹痛を起こす患者に処方をして有効であった経験があります。
二日酔いの漢方薬は黄連解毒湯、五苓散、半夏瀉心湯などが有名ですが、柴胡剤も効きます。特に普段からお酒が多めで慢性的に肝臓が疲れ気味の人に良く効く印象を受けます。
二日酔いによい食べ物、漢方、ツボなどは以下のコラムも参考にしてください。
書いた人
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学