
治打撲一方とコウホネの秘密:岐阜・モネの池が教える漢方の知恵
治打撲一方とコウホネ
岐阜の観光スポットに関市板取の「モネの池」があります。
睡蓮の咲く池の中を錦鯉が泳ぐ景色がモネの絵画を彷彿とさせます。

岐阜のモネの池にはスイレンの他に「コウホネ」という黄色い花が咲いています。
漢字で書くとコウホネは『川骨あるいは河骨』となります。
川骨は根っこが白く、人の骨にみえることからの命名だそうです。
外観が骨に似ているため打撲傷に有効と考えられたのでしょうか。
川骨は日本では漢方生薬として打撲傷、婦人科疾患に使用されてきました。駆瘀血、利水作用があるとされます。
川骨の配合された漢方薬に「治打撲一方」があります。戦国時代の日本の軍医が作った処方で、名前の通り打撲傷に処方されます。

効果増強のコツとしては新しい外傷には抗炎症、瀉下作用のある「ダイオウ」を、陳旧性の古傷には利水、鎮痛の「ブシ」を追加するとよいとされます。
治打撲一方の圧痛点も有名です。お臍の右2横指の部位に圧痛があると治打撲一方の有効率が高いと言われます。

治打撲一方に関連して印象に残っている患者さんがいます。
その患者さんは静脈瘤を伴う下腿浮腫に対して牛車腎気丸や桂枝茯苓丸を処方していましたが無効でした。ある時転倒して大腿に大きな皮下血腫を作って来院されました。皮下血腫は治打撲一方を処方して2週間程度で治癒しました。
治打撲一方を飲んでいると何となく調子が良いと言うのでその後も処方を継続していたら、静脈瘤で浮腫んでいた下肢が今までに無く細くなりました。治打撲一方には桂枝茯苓丸や牛車腎気丸とは異なる駆瘀血、利水作用があると知った一例です。
この症例以来、治打撲一方をただの打撲症の薬ではなく、駆瘀血剤、利水剤として処方しています。特に消化器、乳腺外科医として手術後の腫脹、癒着やリンパ浮腫に治打撲一方を工夫して処方しています。
コウホネの親戚に少し小ぶりな「ヒメコウホネ」という植物もあります。ヒメコウホネは絶滅危惧種であり、岐阜市では達目洞で保護活動が行われています。

かつては日本のあちこちの水辺で見られたコウホネも環境破壊で激減しているそうです。生薬は自然由来の限りある資源です。
一時的なブームで漢方薬を乱用してはいけません。漢方医もSDGsを考えなくてはいけませんね。
- 書いた人
岐阜市・加納渡辺病院 外科専門医・漢方専門医 : 渡邊学