
悪夢は体からのSOS?漢方で読み解く夢と心身の不調のサイン
夢と漢方
2025年7月は予知夢が話題になりました。今回のコラムでは夢と漢方について取り上げてみようと思います。

2000年以上前に書かれた漢方のバイブル、黄帝内経素問霊枢に夢に関しての記述があります。
「素問;方盛衰論篇」、「霊枢;淫邪発夢篇」では悪夢を体からのアラートと捉えています。
体内に邪が入り込むと、臓器が攻撃されて正常に休まらないため、ダメージを受けて弱った部位に関連する悪夢を見ると説明しています。
いくつかの解釈例が書かれているので記載します。
- 陰陽のバランスが崩れた時の夢は
興奮したりイライラして、陽気が高まると、火に焼かれる夢。
落ち込んでクヨクヨして、陰気が高まると、大河を渡ろうとして恐怖する夢。
気持ちがぐちゃぐちゃして、陰陽交錯していると、お互いに傷付けあう夢。
- 五行のバランスが崩れた時の夢は
肝が病むと樹木や怒る夢。肺が病むと白色や戦争、悲しい夢。腎が病むと水に溺れたり怖い夢など。
五行の知識があれば、臓器、感情、色、自然災害など森羅万象すべてを五行に配当して解釈できます。
- 体に悪いところがある時の夢は
上半身が悪いと飛ぶ夢。下半身が悪いと落ちる夢。足が悪いと進もうとしても進めない夢。性的な問題があるとセックスの夢。泌尿器にトラブルがあるとおしっこの夢など。これは直感的に解釈しやすいですよね。
2000年前は夢を上記の様に解釈したようです。私は実際の診察で夢分析をすることはありませんが、時々夢の話が出ることがあります。
若い女性の患者さんが、「先生面白い夢を見ました。頭が割れて、ラーメンが出てきて、笑っちゃいました。」と話してきたことがありました。返答に困りましたが、漢方では喜びすぎは「心」の問題と捉えるので、心に作用する甘麦大棗湯が合うのかもと考えました。この患者さんは天真爛漫でややフワフワした印象の人で夢の内容と雰囲気に矛盾がなかったのもポイントです。

私自身は昔から何かに追いかけられて水に落ちる怖い夢を時々見ます。漢方的には陰気の高ぶり、腎の弱りの解釈で補腎剤や竜骨牡蛎の適応なのだと思います。また40歳を超えた現在の身体的な問題としては睡眠時無呼吸で息が苦しい夢をみているという可能性もあります。
悪い夢を見た時は心と体からの警告と考えて、心身を休めましょう。そうすることで悪夢を逆夢にする事ができると良いと思います。その際は漢方の知識も役立つと思います。

逆に良い夢を見た時は油断せず、慎重に行動し正夢にしましょう。良い夢は不用意に他人にしゃべってはいけません。宇治拾遺物語、曽我物語に夢泥棒の話があります。良い夢にはやっかみや邪魔が入るのです。
夢はデリケートで扱いには慎重さが必要です。自分の夢の解釈や扱いを間違えば虚言、妄想となってしまいます。また他人の夢に間違った解釈を与えてつぶしてしまえば、夢泥棒、ドリームキラーにも成り得ます。
過去には夢を活用した賢人も大勢います。エジプト王の夢を説いた聖書のヨセフ、40年間自分の夢の日記をつけて分析をした鎌倉時代の僧侶明恵、精神分析に夢を用いたフロイト、ユング、アドラーなど。

夢、睡眠には未解明な部分が多くあり、興味が尽きません。
最後に悪い夢を見た際のおまじないの和歌を載せておきます。
『見し夢を獏の餌食と成すからに心も晴れし曙の空』
- 書いた人
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 : 渡邊学