
こむら返りのおまじないと漢方に木瓜が効く?
こむら返りの痛みを止める古いおまじないに、「ボケ、ボケ、ボケ」あるいは「きゅうり、きゅうり、きゅうり」と唱えて患部をさするという方法があるそうです。始めは何のこっちゃ?と思いましたが、漢字表記を見て意味がわかりました。
漢字で書くと「木瓜、木瓜、木瓜」です。木瓜は植物のボケであり、また「キウリ」と読めるのでキュウリの意味もあります。

木瓜は漢方ではモッカと読み、カリンの実あるいはボケの実を指します。現在のエキス漢方では木瓜が配合された処方はありませんが、伝統的に木瓜は筋肉の引き攣りを抑える特効薬とされてきました。
上述のおまじないは、こむら返りの特効薬である木瓜の効能にあやかって、「木瓜、木瓜、木瓜」とその名前を呪文のように唱えたわけです。木瓜はモッカ、ボケ、キウリと読めるので、呪文の唱え方にバリエーションができたのだと思います。

現在ではこむら返りの漢方と言えば芍薬甘草湯の一本槍ですが、かつては木瓜も有力候補でした。衆方規矩という江戸時代の教科書には下肢の痛みに木瓜を配合する指示があります。例えばこむら返りや坐骨神経痛に処方される疎経活血湯や五積散に木瓜を配合する記載があります。
木瓜は水分が体から漏れ出るのを抑える効能があるとされ、嘔吐下痢症の脱水によるこむら返りにも処方されました。嘔吐下痢症に五苓散が良く使われますが木瓜を配合すると効果が増強する様です。
現在では咳止め、のど痛のイメージの強いカリンの実ですが、漢方では木瓜と表記され、かつてはこむら返りや下痢による脱水に処方されました。そしてその薬効にあやかって「木瓜、木瓜、木瓜」という、こむら返りの際のおまじないにもなりました。

当院では暑気あたりによる脱水やこむら返りに芍薬甘草湯や五苓散を処方していますが、木瓜を配合すると効果がアップするのか気になるところです。
診察中に私が「ぼけ、ぼけ、ぼけ」とつぶやいていたら、バカにしているわけではありません。こむら返りが治る様におまじないをかけているのです。
書いた人
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学