
センブリとセントーリー|ケンタウルス由来の薬草が持つ癒しの力とは?
センブリとセントーリーとケンタウルスの関係
民間薬として有名ですが、漢方薬に配合されない薬草にセンブリがあります。その名前は千回振り出しても(抽出しても)まだ苦い事に由来するとされます。
また良く効く薬草という意味の当薬という別名もあります。

センブリが配合された民間薬では百草丸が有名です。「お百草を飲んだけれど、お腹の調子が良くならなくて」と来院される患者さんがいます。
そんな時はちょっと重症かなと身構えて診察をします。私も暴飲暴食をした時は愛用しています。あの苦みが良く効きそうな気持にさせてくれます。
日本のセンブリは白い花が咲きますが、ヨーロッパのセンブリはピンク色の花が咲き、ベニバナセンブリの名前があります。

ベニバナセンブリは西洋ではセントーリーと呼ばれ、リンドウ科ケンタウリウム属(Centaurium)に属します。この属名は半人半馬のケンタウルスに由来するとされます。

ケイロン
ケンタウルス族の賢者にケイロンがあります。
ケイロンは医術に長けており、医聖アスクレピオスのお師匠さんでもありました。ケイロンがヘラクレスに撃たれた矢傷の治療に用いた薬草がベニバナセンブリであったとされます。
この逸話からベニバナセンブリにケンタウリウムの名前が付きました。センブリはケンタウルス族の賢者の名前を冠した由緒ある薬草なのです。
Wounded Healer 傷ついた癒し手
ケイロンは親に捨てられ、また好色で野蛮とされるケンタウロス族の出自というハンディキャップを乗り越えて賢者となり、優れた教師として後進を育てました。
またヘラクレスに撃たれた矢傷を治療する過程で医術を究め、多くの人を救いました。最後は不死の苦しみを克服するためにプロメテウスに不死を譲り、山羊座となり天に上りました。

この伝説からケイロンは「傷ついた癒し手」と呼ばれます。自らが傷に苦しみ、困難を乗り越えたからこそ、その治療、言動に説得力が宿るという考え方です。
セントーリーとアサーション
ベニバナセンブリの西洋名のセントーリー(Centaury)はケンタウルスの英語読みに由来します。セントーリーはバッチフラワーにも用いられています。
空気を読み過ぎて自分より他人を優先してしまう人に、自分の気持ちを伝える勇気と意志の強さを与えるレメディーとされます。

このような相手も自分も尊重するコミュニケーション方法を英語ではassertion(アサーション)と呼びます。セントーリーはお人好しで自己主張(アサーション)の苦手な多くの日本人に必要なレメディーかもしれません。
日本では献身や自己犠牲が美徳とされてきましたが、過度に自分を削る滅私奉公では当然に長続きしません。
燃え尽きる前に勇気を出して助けを求めるべきです。看護の母、ナイチンゲールも「犠牲なき献身こそ真の奉仕」と言っています。
滅私奉公から犠牲なき献身へのステップアップこそがセントーリーの目指す所ではないかと思います。
センブリ、セントーリーはケンタウルス族の賢者ケイロンが用いた薬草であり、傷ついた癒し手、アサーションというキーワードに関連するという事を書きました。
セントーリーは医療者が胸にとどめておくべきシンボルの一つかもしれません。
センブリは由緒ある薬草であり、『罰ゲームの小道具にしたらバチが当たりますよ』という気持ちを込めてこのコラムを書きました。
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 : 渡邊学