菊は見て楽しむだけじゃない!菊の漢方と美味しい食べ方
菊と漢方
菊が見頃を迎え、各地で品評会が催されています。菊は桜と供に日本を代表する花であり古来より大切にされてきました。
旧暦の9月9日(新暦では10月中頃)は重陽の節句で、菊の美しい時期であるために菊の節句とも言われます。
漢方
菊は見て楽しむだけでなく、漢方薬としても使用されます。
疏風清熱(そふうせいねつ)、平肝明目、解毒の効能があります。平たく言うと、熱を冷まし、炎症を抑え、目や肌に良いとされます。
菊花の配合された有名な処方に「釣藤散(ちょうとうさん)」があります。朝に悪化する頭痛、目の痛み、充血、めまい、耳鳴り、不眠、肩こりなどに処方されます。主薬の釣藤鈎には血管拡張、血圧降下作用があるとされます。
また処方の中に二陳湯という胃薬が配合されており、胃の弱い人に適応します。言い換えると、動脈硬化で高血圧気味の、やや虚弱な中高年者の首から上のトラブルによく使われます。
釣藤鈎を含む抑肝散と供に認知症への効果も研究されています。抑肝散の方が有名ですが、釣藤散も適応になる人が多い処方だと感じています。
桑菊飲は桑の葉、菊花、薄荷などからなる薬で、喉に熱を持った風邪によいです。
杞菊地黄丸は菊花、枸杞子などから成る処方で目に良いとされます。
食用
菊は食用にもされます。刺身に添えられる菊は彩りの他に解毒作用も期待されます。飾りの小菊は愛知県豊橋市が産地です。
山形では「もってのほか」という薄紫色の食用の品種が栽培されています。名前の由来は天皇家の印である菊を食べるのはもってのほかから来たそうです。お浸しや酢味噌和えにして食べるとシャキシャキしてほろ苦く、大人の味なのだとか。私は食べたことがありませんが、色鮮やかで美味しそうです。
乾燥させた菊花をお茶として飲むのも良いです。眼精疲労、頭痛、吹き出物などに良いとされます。
菊酒
菊は延命長寿の効能があるとされ、色々な逸話があります。酒との相性も良いようで、菊の花びらを酒に浸して飲む菊酒が長寿を願って飲まれてきました。
花札の9月の札には「菊に盃」がありますし、菊の名前を冠したお酒も多いです。大手の日本酒では菊正宗。菊水のふなくちはコンビニで買える缶に入った日本酒で度数が高めで甘口。菊之露は赤いラベルが印象的な泡盛。菊姫は石川の黄色みのかかった濃厚なお酒。
ぱっと思いつくだけでも結構あります。今夜の晩酌は刺身の飾りの菊を見ながら、菊の名前のお酒でなんちゃって菊酒と洒落こみましょうか(o^―^o)
洋甘菊とは?
ここでクイズです。洋甘菊とはどんな植物だと思いますか?答えはカモミールです。
カモミールも菊科の植物で西洋では古代エジプト時代よりハーブとして使用されてきました。その効能は抗炎症、精神安定、消化促進、美肌、老化予防などとされています。
菊科の植物は東洋でも西洋でも薬草として使用され、効能が重複するところが多いのも面白いです。
カモミールの主たる薬効成分の一つがアズレンで、アズノールという処方薬があります。消炎作用、粘膜保護作用があり、咽頭炎のうがい、胃炎の内服、湿疹の外用などに使用出来ます。
軟膏の色はアズレンブルーという青色でキレイです。少しべたつきますが、どこにでもぬれて重宝します。風邪のシーズンや軽い湿疹によく処方します。漢方の菊花を連想しながら処方しています。
カモミールティーは菊花茶より手に入りやすいと思います。厳密には効能は違うのでしょうが、近い所はあると思います。カモミールはリンゴの香りがすると言われますが、私の鼻ではよく分かりません。
個人的にはほんのり草餅の香りがするように思います。ミントを入れると喉によい桑菊飲、枸杞の実をトッピングすると目に良い杞菊飲に近付くと思います。ノンカフェインで安眠効果があるとされます。香りも控えめで飲みやすいです。
漢字
最後に漢字の雑学です。
「勹:つつみがまえ」は人が物を包む形を表しており、扌+米+勹の組み合わせは、手でお米を包む=掬(すくう)になります。
また、米+勹(匊)はお米のような小さなものを包んで丸くまとめるという意味をなし、革を丸めた物が鞠(まり)です。
米+勹(匊)に草冠をつけると(お米のような小さな)たくさんの花が丸い形にまとまった菊を表します。菊の花は実は一つの花ではなく、花びらに見える小さな花の集合体なのです。
菊を楽しみましょう
菊は見てよし、香りよし、味わってよしです。日本では菊は仏花のイメージがありますが、最近では○○マムという名前のかわいい西洋菊も多く流通しています。
花持ちが良いのも菊の魅力です。お部屋に飾って眺めると、目の疲れや肩こり、頭痛が改善するかもしれませんよ。
書いた人:
岐阜市 加納渡辺病院
外科専門医、漢方専門医 渡邊学