“龍の力を借りて健康に!2024年辰年にちなんだ漢方薬の世界”
龍に関連する漢方薬
2024年、辰年にちなんで龍の名前に関連した漢方薬のお話をしようと思います。
龍も人間にかかると頭の先から尻尾まで薬にされてしまう様です。
青竜
エフェドリンの原料となる麻黄の別名を青竜、竜沙と呼びます。
コロナ、インフルエンザの流行で大活躍している葛根湯、麻黄湯、小青竜湯、麻杏甘石湯などに配合されます。
東西南北を守護する神獣である青龍、白虎、朱雀、玄武を四神と呼びます。生薬にはその色、効能から四神の名前の付いた薬があります。麻黄の青が青龍、石膏の白が白虎、棗の赤が朱雀、附子の黒が玄武に対応します。
大青竜湯という実証向けの処方があります。エキス剤にはないので麻黄湯+越婢加朮湯で代用します。麻黄の含有量が多くまさに「大(強力の意味)」に恥じない薬です。
三国志の関羽の青龍偃月刀をイメージして処方しています。
竜胆
竜の胆嚢に匹敵するほどの苦いのでこの名前が付きました。秋に紫色の花を咲かせるリンドウの根です。
歴史小説家の吉川英治が愛した花で、文庫のトレードマークとなっています。漢方薬では竜胆瀉肝湯が有名で、湿熱、炎症(特に下半身)を抑えるとされます。
当院では痔瘻、尿道炎、膿皮症や帯状疱疹に処方しています。苦くて飲みにくい薬です。西洋名はゲンチアナ、健胃作用のあるハーブとして薬草系のリキュールに配合されます。
ピカソが愛飲したSUZE(スーズ)が有名で、「フランスのカンパリ」と呼ばれます。きれいな黄色で苦味のあるお酒なので、心の中で「竜の胆汁」と呼んで気に入って飲んでいます。
トニック、ソーダ割がさっぱりして一般的ですが、ロックが個人的にはおすすめ。リンドウの花言葉は「あなたの悲しみに寄り添う」だそうです。竜胆瀉肝湯を処方するときに時々頭をよぎります。
竜骨、竜歯
大型哺乳類の化石です。柴胡加竜骨牡蛎湯、桂皮加竜骨牡蛎湯、柴胡桂皮乾姜湯などに配合されます。
ストレス、不安、盗汗、嫌な夢、動悸などに処方されます。竜骨(化石)、牡蛎(カキの貝殻)のカルシウムのヨロイで心をプロテクトするイメージでしょうか。
鉱物系の生薬は重鎮安心剤と呼ばれ、錨(イカリ)の様に不安を鎮めるとされます。
カルシウムがイライラに効くというのは眉唾と思っていましたが、知り合いの漢方薬が得意な精神科医が牡蛎末を良く処方すると聞いてからは自信をもって処方しています。
竜眼肉
ライチに似た果物です。乳白色の果実の中の黒い種が竜の目の様に見えます。
甘味が心を落ち着け、体力の消耗、不安などを改善させます。帰脾湯に配合されます。
コロナ感染後の倦怠感で、不安や鬱っぽさがある人には補中益気湯より帰脾湯が良く効く印象です。
帰脾湯はコロナ禍で良く処方し、使い方を覚えた薬の一つです。
リュウノヒゲ
咳止めの漢方として有名な麦門冬湯に配合される麦門冬は、リュウノヒゲという植物の根の瘤です。
潤いを与えながら咳を止めるとされ、麦門冬湯は乾性の咳や夜間の咳上げに処方されます。
夏バテに処方される清暑益気湯にも潤いを与えて脱水を防ぐ目的で配合されています。
竜角、竜脳
喉の痛みにおなじみの「龍角散」のオリジナルレシピには竜骨、鹿角霜、竜脳が配合されており、龍角散というネーミングとなりました。
竜の角は鹿の角の形とされますので、鹿角霜は竜角の代用として矛盾はないのでしょう。
竜脳はボルネオ島原産の貴重な香木で気付け薬として使用されました。
現在の龍角散にはいずれも配合されていません。
竜舌
竜の舌ではないですが、それに似た蛇の舌の名前の付く、白花蛇舌という生薬があります。半枝蓮と共に抗がん作用のある生薬として有名です。
竜牙
竜牙草。別名を仙鶴草、金水引と言い、漢方では止血作用があるとされます。
西洋名はアグリモニーで、バッチフラワーで使用されます。自分の辛さを人に見せるのを嫌い、表面上は快活で元気に見えるが、実は悩みを抱えている人に処方されます。
女郎花(おみなえし)の中国名は黄花竜牙です。漢方ではその根を敗醤と呼び、炎症を抑える作用があるとされます。独特の匂いがあります。
薏苡附子敗醤散という処方が虫垂炎に使用されました。
竜涎香
竜のよだれ。実際はクジラの胆石あるいは腸内結石です。貴重で非常に高価です。
良い香りがして、媚薬や心疾患、認知症などの精神疾患に使われたとのこと。
漫画「鉄鍋のジャン」の薬膳料理に出てきて知りました。
竜鯉鱗
穿山甲(センザンコウ)のうろこ。アルマジロに似た甲羅を持つ動物で、甲羅が竜の鱗を連想させたのでしょう。
活血、通乳、抗炎症作用などがあるとされます。密猟が問題となっており、絶滅が危惧されています。
竜になる前の鯉の鱗にも同様の薬効があります。鯉の鱗を龍の鱗と思って大切に食べましょう。
地竜
立派な名前ですがミミズです。解熱、溶血作用があるとされます。
昔ある医者がお偉いさんの病気にミミズを処方して治しました。
薬の内容を聞かれた際に、ミミズを処方したとばれたら怒りを買うと考えた医者は、ミミズの事を地竜と大層な名前で呼び難を逃れたという話があります。
伏龍肝
竈門(かまど)の土。レンガで代用。止血作用があるとされ、下血や不正性器出血などに処方されるとのこと。
土に含まれる何らかのミネラル分が効くのか?
海竜
タツノオトシゴ(海馬)の親戚のヨウジウオ。海馬とともに強壮薬として使用されます。
などなど。まだ探せばいっぱいあると思いますが、思いつくまま羅列してみました。参考になれば。
最後にクイズです。
龍髭菜と書く野菜がありますが、なんでしょうか?答えは『アスパラガス』です。竜の髭はずいぶん太くて硬いようです。