帯状疱疹に効く漢方薬とは?~帯状疱疹と蛇の関係~
帯状疱疹の漢方 ~帯状疱疹と蛇の関係~
2025年、巳年にちなんで、蛇に関連した漢方コラムを書いてみようと思います。
帯状疱疹は英語ではHerpes Zosterで、Herpesは這う、Zosterは帯を意味します。
中国語、英語いずれもその特徴的な湿疹の分布から、蛇や帯の様に這う湿疹という意味の名前がつけられています。
帯状疱疹の鍼灸治療には蛇の名前のついた面白いツボがあるので紹介します。
蛇眼、蛇尾穴
帯状疱疹を蛇に見立てて、蛇の眼、尻尾に該当する部分に2か所ずつお灸をすると良いとされます。どこが眼で尻尾か悩む時もありますが・・・。(すぐに役立つ鍼灸処方162選 張仁 源草社)
蛇眼、竜眼穴
それぞれ手の母指、小指の第2関節にある奇穴です。名前に蛇、竜が付く事からいかにも蛇丹(帯状疱疹)に効きそうです。刺絡(穿刺して血をしぼること)をすると良いそうですが、怪しい医者と思われそうで、自分の患者に勧めたことはありません。(鍼灸一穴療法 趙振景・西田皓一 東洋学術出版社)
鍼灸治療
オーソドックスな鍼灸治療としては、湿疹を囲む様に針をするのも有効とされます。また棒灸で全体を温めるのも気持ちが良いです。
私が見学に行っていた鍼灸院のおばあちゃん先生は、帯状疱疹は熱に弱いと言っていました。昔は湿疹の上に脱脂綿をひいて、綿花灸といって焼いて治療したそうです。
当院では疼痛が強い際はトリガー注射をすることがあります。その際に局所の注射に追加して、東洋医学を応用したツボ注射を併用する場合があります。
湿疹が上半身にある場合は合谷、曲池。下半身では太衝、三陰交、陽陵泉。体幹部では外関、臨泣などの注射が有効と思います。
帯状疱疹の漢方薬と蛇
帯状疱疹の漢方薬と蛇との関連はどうでしょうか。
漢方薬で帯状疱疹を治療する際に重要な生薬に附子(トリカブト)があります。附子はその黒い色や温める効能から北方を守護する玄武に例えられることがあります。玄武は蛇と亀からなる霊獣なので、附子(玄武)は蛇丹(帯状疱疹)に効きそうな気がします。実際に附子には利水、鎮痛作用があり、帯状疱疹の水泡をさばき、神経痛を抑えてくれます。
帯状疱疹などの炎症性疾患に附子のような熱薬は禁忌ではないかという疑問がありましたが、松田邦夫先生の書籍を読み、疑問が解消されました。誰しも弱って生命力の衰えた時に帯状疱疹になるので附子で温めて陽気を補ってやると良いとありました。なるほどと、目からうろこが落ちました。(症例による漢方治療の実際 松田邦夫 創元社)
附子を含むエキス製剤では麻黄附子細辛湯や桂枝加朮附湯が有名です。また附子末を既存の製剤にトッピングして効果を増強することもできます。松田先生は附子単味での治療経験も報告されています。
湿疹のできた部位で処方を選択する方法もあります。漢方薬によって作用しやすい部位が異なるのです。
上半身 :葛根湯、五苓散、越婢加朮湯
体幹部 :柴胡桂枝湯 四逆散
下半身 :竜胆瀉肝湯 牛車腎気丸 などは試す価値があると思います。
急性期を過ぎた後に痛みや薬の副作用で、胃腸の調子が悪くなることがあります。免疫力の低下を気にされる患者さんも多いです。そんな時は気を補う胃薬である補中益気湯を処方します。また創の治りが悪い場合は気血双補の十全大補湯も良い処方だと思います。
当院ではこじれた神経痛を診察することは少ないです。恐らくは近隣のペインクリニックを受診されているのでしょう。文献的には痛みの漢方としては、痛みは怒りにつながるので、怒りを抑える抑肝散が有効とされます。またアロディニアのような感覚異常には六味丸+麦門冬湯が有効との報告もあるようですが、当院では未経験です。
自験例
帯状疱疹の漢方治療について色々記載しましたが、実際は抗ウイルス薬、鎮痛剤、ビタミン剤、ステロイドなどの西洋薬を主にして治療をしており、漢方の出番はあまり多くありません。
しかし自分が病気になった時は別です。まずは漢方治療を試してみたくなります。
私は数年前に帯状疱疹になりました。ベルトの辺りが妙にひりひりするなと思って、鏡をみると帯状疱疹でした。蛇というよりはヒキガエルみたいな形の湿疹でしたが、ヒキガエルの眼と尻尾にたっぷりとお灸をして、漢方の外用薬の紫雲膏を塗りました。
風邪のひきはじめのようなピリピリした嫌な感じがあったので葛根湯をお湯にといて飲みました。割と即効性があり、特に後遺症もなく治癒しました。帯状疱疹も軽症なら抗ウイルス薬、鎮痛剤なしでも治るという発見でした。手指にある蛇眼、竜眼穴を失念していて試しそびれたのと、附子末が手元になく内服できなかったのが心残りではありましたが・・・。
最後に
2025年巳年に蛇に関連して帯状疱疹の漢方治療のコラムを書きました。2025年は帯状疱疹ワクチンが定期接種になる予定です。ワクチンに加えて漢方も治療の選択肢になれば幸いです。
書いた人
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学