新型コロナウイルス流行による漢方薬不足と対策
漢方薬が不足してます
漢方薬が不足しています。原因は色々ありますが、コロナ感染症に漢方薬が有効(急性期、後遺症ともに)という報告が増えて需要が高まったことや、原料の生薬の多くが中国からの輸入のためにコロナの影響で物流が制限されて供給が間に合わないことなどが挙げられます。
さらに円安による原価の高騰もあり、しばらくは厳しい状況が続きそうです。
しかしピンチはチャンスでもあります。私個人としては今までの処方の妥当性、必要性を見直し、今まであまり使用してこなかった有効な処方を開拓する良い機会であると思います。
また東洋医学は漢方薬のみではありません。今後は東洋医学的な養生、鍼灸を診療に積極的に使用していこうと考えています。また日本全体としては生薬の国産化がもう少し進むきっかけになると良いなと思います。
処方の工夫 その①
感冒様症状で漢方薬を使いたいが、入荷がない場合の代替となる処方(漢方薬、西洋薬を含めて)を挙げてみます。どちらかというと処方するお医者さんや薬剤師さん向けの内容になっていますが、どなたでも参考にしてみてください。
ポイントはコロナ感染症という病名で処方を固定せずに症状に応じて処方を分散させること、処方日数をむやみに長期にしないこと、処方の内容を理解し効果の近い漢方薬で代用すること、漢方に固執せず西洋薬を適宜使用する事、市販のOTC薬(一般用医薬品)を活用することなどが大事かなと思います。
葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏を中心としてその周辺の処方を説明します
体力のある若者には
体力が十分ある若者で、寒気、関節痛が強く、汗が出なくて体が非常につらい場合は麻黄湯+越婢加朮湯or麻杏甘石湯が良いと言われています。
麻黄湯で発汗させて体表面の熱を下げ、石膏で体の奥の熱を下げる処方です。越婢加朮湯、麻杏甘石湯が品薄なので、石膏を含む白虎加人参湯でもよいと思います。
また漢方にこだわらずに麻黄湯と解熱鎮痛薬のロキソニンの併用で良いと思います。
汗をかかせる漢方に解熱剤の併用が嫌われることがありますが、高熱は体力を消耗するので併用して良いと思います。短期決戦の処方なので2‐3日の内服でよいです。
しかしこの処方は体力のある若者限定でそれほど使用頻度は高くない印象です。
体力が中等度の方には
体力が中等度で頭痛、寒気、咽頭痛などがある場合は柴葛解肌湯(葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏)が有名になりました。しかし処方したい場合には、小柴胡湯加桔梗石膏の在庫がないことが多いです。
小柴胡湯加桔梗石膏は解熱鎮痛作用のある胃薬という感じです。
コロナ感染症はインフルエンザと比較して胃腸症状、咽頭痛が出やすいために処方されます。入荷がない場合は少し在庫に余裕のある小柴胡湯もよいと思います。
あるいは小柴胡湯が含まれている別の漢方エキスを使用するのも良いです。
例えば咳が強い場合は柴朴湯(小柴胡湯+半夏厚朴湯(咳止め))、胃腸症状が強い場合は柴苓湯(小柴胡湯+五苓散(吐き気、下痢止め))を処方するという手はあります。
中国で有名になった清肺排毒湯には柴苓湯が含まれています。
あるいは小柴胡湯を胃薬と割り切って、ムコスタやマーズレンといった西洋薬の胃薬で代用するのも良いと思います。桔梗石膏は消炎鎮痛薬なのでカロナールで概ねよいとおもいます。
そうすると葛根湯+ムコスタorマーズレン+カロナールというあまりひねりの無い処方になりますが。5日分程度処方して、症状によってもう少し短期間で飲み切ってもらうのも可としています。
やや体力が弱い方には
やや体力が弱く、ちょっと寒気がして、熱が出て食欲がなくなり、鎮痛剤で胃が荒れやすいような人の感冒には柴胡桂枝湯がよいです。葛根湯から胃に障る麻黄を除いた桂枝湯に小柴胡湯が合わさった薬です。
発熱、腹痛にマイルドに効くので女性や子供の感冒症状には一番無難で使いやすいと思います。
またこの薬の良いところは急性期が過ぎた後の慢性期の微熱にも使用できる事です。7日くらい処方して良いと思います。
葛根湯も併せて3日くらい処方しておいて、最初に葛根湯を飲んで、その後柴胡桂枝湯にバトンタッチするのも良い工夫と思います。やや品薄ですが、在庫まだあり。
さらに体力のない高齢の方には
さらに体力のない高齢の方で、体がだるくて、喉がチクチク痛んで、なんとなく元気がないという症状には麻黄附子細辛湯がよいです。これに前述の桂枝湯を加えると効果が増強します。
炎症を抑えるというよりは抗病力を賦活する方向に作用する薬です。ポイントは元気がなくて寝ていたいという点です。お年寄りには葛根湯よりよい印象です。
桂枝湯はおいていない薬局もありますが、桂枝湯にはシナモンとショウガが含まれているので、スーパーで売っている生姜湯やシナモンをトッピングして飲むのもよいです。
体力が低下し食事もとれない場合には
さらに体力が低下し食事もとれない場合は人参湯or大建中湯+真武湯の組み合わせがありますが、この場合は無理せず高次医療機関に紹介がよいでしょう。