新型コロナウイルスへの漢方 柴葛解肌湯(さいかつげきとう)の解説
新型コロナウイルスへの漢方の有効性
2022年11月に東北大学医学部からコロナ感染症に対する漢方薬の有効性の発表がありました。
軽症~中等症の患者に葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を投与すると従来治療と比較して解熱が1日早まり、中等症かつワクチン未接種の患者では呼吸不全への移行が抑えられる傾向が見られる(漢方群6.7%vs対象群19.5%)という報告でした。
漢方薬が効いている印象はあってもどの程度の効果があるかを客観的に評価した研究は少なく、意味深い報告であると思います。漢方薬は魔法の新薬ではありませんが、いぶし銀の良い働きをしたという所でしょうか。
以下に処方の内容に関する漢方的な解説を少し付け加えておきます。
柴葛解肌湯(さいかつげきとう)
葛根湯は寒気を伴う風邪や肩こりに、小柴胡湯加桔梗石膏は扁桃炎に良く使用される処方です。
この組み合わせは柴葛解肌湯という処方に近い内容になります。柴葛解肌湯は100年前に猛威を振るったスペイン風邪で活躍した処方です。
古典では病気は体の表面から奥に進行して行くと考えられており、表→半表半裏→裏と表現されます。
表証では寒気、頭痛、関節痛などがあり、半表半裏証では吐き気、食指不振、めまいなどがおこり、裏証では高熱、口渇でうなされたりするとされています。
それぞれの病期に対する代表処方と生薬は、表証には葛根湯(麻黄、桂皮)、半表半裏証には小柴胡湯(柴胡、黄ごん)、裏証には白虎加人参湯(石膏)が設定されています。
柴葛解肌湯(葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏)を見てみると、表証(葛根湯)、半表半裏証(小柴胡湯)、裏証(石膏)の全部を網羅する処方構成になっているのがわかります。
言葉を変えると、葛根湯で寒気、頭痛、関節痛を治し、小柴胡湯で胃腸症状に対応し、石膏で発熱を治すという広範囲に対応する処方となります。
漢方治療の原則ではしっかり診察をしてそれぞれの病期に対応するピンポイントの処方を行うことが重要とされていますが、それぞれの病期がオーバーラップする事もままあります。
特にコロナ感染症では急速に症状が進行する場合があるのでそれを見越して先手を打って置くことも重要となります。
また感染予防のために小まめな診察が難しく、自宅療養が長い事を考えると幅広い病期に対応できる柴葛解肌湯は現状にマッチした有効な処方なのだと思います。
あれこれ混ぜて全部乗せラーメンみたいで品がないと思ったこともありますが、昔から使われてきた良く効く処方です。
問題点も・・・。
問題点としては東北大学の論文では2週間投薬されていますが、急性期の処方としては長くても1週間程度までに留めるべきでしょう。また対象患者の平均年齢が35-37歳と若い患者が多かったことも注意が必要です。
柴葛解肌湯は比較的体力がある患者向けの処方のため、若い患者の多い今回の研究では有効でしたが、コロナ感染症が重症化しやすい体力の低下した高齢者ではより虚証向けの処方の検討も必要かと思います。
しかし何より最大の問題点は、柴葛解肌湯が有効なので処方したくても、薬が品切れで処方できないということです。
コロナに漢方が有効という今回の東北大学の発表は漢方医として非常に喜ばしいことなのですが、その反面で漢方薬の需要が急増して、供給が追い付かないという状況になってしまいました。
製薬会社の努力で現状は改善しつつありますが、もう数か月は品薄の状況が続きそうです。漢方薬不足の現状と対策については別のコラムに記載しようと思います。