痔の鍼灸 ~痔に効くツボとは~
痔の鍼灸について
黄色のツボ
孔最という肘の外側にあるツボが有名です。私が見学に行っていた鍼灸院では痔の患者さんによく使っていました。痔の急性期には圧痛硬結などの反応が良く出るわかりやすいツボです。
肺のツボですが、東洋医学では肺と大腸を表裏の関係にあると考えて肺のツボで大腸を治します。
また大腸と胃も似た作用があるとしてセットで考えます。足の胃経にある上巨虚というツボは大腸に籠った熱を取り除き、便秘を解消する効果があるため痔に有効です。
これらのツボに血流の滞りを解消する効能を持つ血海(膝の上内側にあるツボ)を組み合わせると、痔の漢方薬でも紹介した桃核承気湯(瘀血を下す力の強い下剤)に近い働きをするものと考えています
背面のツボ
承山というふくらはぎにある膀胱経のツボも有名です。痔の他にはこむら返りや腰背部痛にも使用されます。膀胱経は体の背面を走行しており、その支流が肛門に流入するとされています。
そのため承山を刺激するとお尻に効果が期待できるのです。嵌頓痔核などの疼痛の強い場合に承山への刺針を併用しています。
長強という尾骨の裏にあるツボも痔の局所へ直接働きかけて有効といわれています。しかし刺すのがとっても痛そうな場所なので、私はまだ使ったことがありません。
青色のツボ(下腿)
肛門と生殖器は近い部位にあるので、生殖器を通過する肝経のツボも痔疾患には使用されます。下腿内側にある三陰交は肝経、脾経、腎経の三陰経の交わるツボで有名です。三陰交は血流を改善し、浮腫みを取る効能があります。
そのため貧血や浮腫み、月経痛があり、寒くなると悪化するような痔に有効です。このようなタイプは漢方薬では当帰芍薬散が有効です。月経に加えてイライラやストレスが関与しそうな痔には足の第1、第2趾間の太衝も良いです。
また痔疾に陰部の熱感や掻痒感を伴う場合には蠡溝というツボも有効です。虫という漢字が入っているように、虫が這うような不快な痒みに有効といわれています。
痔の漢方薬で解説した乙字湯が痔だけではなく陰部の不快感に有効なのも肝経に効く薬剤が配合されているためでした。
赤色のツボ(脱肛)
最後に頭のてっぺん、百会について。肛門の筋力が緩んで痔や直腸粘膜が飛び出る、いわゆる脱肛に効きます。高齢の女性に多い病態です。
軽い脱肛には漢方薬では補中益気湯がとても良く効きます。補中益気湯は胃腸を丈夫にして、内臓を持ち上げる効果のある薬です。お腹に力がついて踏ん張れるようになるため、便通が改善して痔も楽になるようです。
補中益気湯に含まれる柴胡、升麻には内臓を持ち上げる作用があるとされています。百会にも陽気を持ち上げる作用があるとされており、効能は近いと思います。頭のてっぺんの刺激でお尻を引っ張り上げると考えると面白いですね。
脱肛を改善する骨盤底筋運動のついでに自分で百会をマッサージするように指導しています。お尻も持ち上がり、頭の血流も良くなるので痔にも認知症予防にも一石二鳥かなと思っています。
その他にはみぞおちにある中脘や臍下にある気海の併用も効果的です。中脘は消化器の力を高め、気海は読んで字のごとく気力を高めます。中脘と気海は補中益気湯の『中』と『気』に通じます。
初期の脱肛には補中益気湯に百会、中脘、気海の刺激、骨盤底筋運動を併用すると結構良く効くと実感しています。ただし腸が数cmも飛び出す直腸脱にはさすがに無効なので、その場合は手術をお勧めしています。
当院では5㎝程度までの直腸脱に対して腰椎麻酔あるいは局所麻酔下に手術:(Gant-三輪-Thiersch法)を行っています。