
百合の薬膳・漢方効果|心と体を癒す伝統の知恵
百合の漢方と薬膳
病院の玄関に百合の花を飾りました。ゴージャスかつリッチに咲き香っています。今回のコラムは百合と漢方のお話です。
忘憂草
百合の花の別名に忘憂草、忘れ草という呼び名があります。忘れてしまいたいほど辛い事があった時、美しく揺れる百合の花が心の慰めになったことからの命名でしょうか。エレガントで美しく、良い香りのする百合の花は場の空気を浄化する力が強いと言われます。百合の香りには抗うつ作用、安眠作用があるとも言われます。憂鬱な気分の時は華やかな忘憂草を愛でて心を浄化しましょう。
病院の待合室に時々百合の花を飾っています。心に潤いをつけ、病気の辛さ、憂鬱を忘れる助けになれば幸いです。

金針菜
食用の百合のつぼみを金針菜と言います。中国ではお茶や野菜として食べられるそうです。私は食べたことがありませんが、シャキシャキした歯ごたえで美味しいそうです。鉄分が豊富で、イライラや不眠によいのだとか。

百合根
漢方では百合根は肺を潤し咳を止め、心を落ち着ける作用があるとされます。
漢方の古典「金匱要略」に「百合病」という、百合根が主治薬となる病気が記載されています。
百合病は病気が長引いたり、精神的な抑圧が続く事で発症する一種の心身症のようです。
少し長くなりますが、金匱要略を意訳してみます。
その症状は、食欲が減り、口数が減り、不眠となり、動くのが億劫になり、食事が美味しくなくなり、寒気がしたり、火照ったりする。多くの薬は無効で、精神症状は強いが、身体所見ははっきりしない。

と記されています。このような症状に百合根が有効とされます。
このコラムを書いていて気が付きましたが、コロナ後遺症のいくつかは百合病の範疇に入るのかもしれません。
百合病の薬の一つに百合鶏子湯という処方が記載されています。百合根と鶏卵からなる処方で、味付けして蒸したら百合根入り茶碗蒸しになります。

百合根は百合病に対する薬膳なのです。病気の治りが悪く、ストレスがたまり、憂鬱で、食欲がなく、味がまずく、寝つきが悪く、やる気が出ない時は百合根入り茶碗蒸しで潤いとエネルギーをチャージしましょう。
ちなみに現在のエキス製剤で百合根が配合された薬に辛夷清肺湯があります。蓄膿症などに処方される薬です。百合根は肺を潤し痰を切りやすくするために配合されています。辛夷清肺湯は石膏の配合されたやや実証向きの処方です。
コロナ後の鼻炎、嗅覚障害に処方したことがありますが、飲みにくいという患者さんが何人かおられました。虚証の多いコロナ後遺症に辛夷清肺湯を処方する場合は少な目に処方するのが良いのかもしれません。
百合は見て良し、香り良し、食べて良しです。美しいだけでなく、薬効もあらたかです。百合から心の潤いをもらい、憂鬱を忘れられると良いですね。百合と漢方についてコラムを書いてみました。
- 書いた人
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学