桃の神秘と女性の健康:雛祭りと漢方の結びつき
桃と漢方
あかりをつけましょ ぼんぼりに
お花をあげましょ 桃の花
五人ばやしの 笛太鼓
今日はたのしい ひなまつり
雛祭り、桃の節句にちなんで桃と漢方のお話をしようと思います。
桃の種は桃仁と呼ばれ、漢方では血流を良くし、便通を改善する効能があるとされます。
私の好きな処方の「桃核承気湯」に桃仁が配合されています。
便秘がちで生理痛や痔があり、おできが出来やすく、血圧が高めで、時々頭に血がのぼって赤い顔でイライラしたりする。思い当たる人は結構あると思います。
こんな人に処方すると喜ばれます。消化器外科、乳腺外科で勤務していた時は、術後の便秘や更年期のホットフラッシュに重宝しました。
その他、外傷や手術後の内出血。痔や静脈瘤などの血流の鬱滞。生理痛、PMS、更年期障害などの婦人科疾患、便秘、高血圧、のぼせ、頭痛、イライラなど。使用目標は多彩です。
「節分の漢方」のコラムでも記載しましたが、桃は古来より魔除け、不老長寿の効能があるとされ、仙果と呼ばれてきました。
イザナギが黄泉の国から脱出する際に雷神に投げつけたのが桃ですし、孫悟空が盗み食いをした不老長寿の果実も桃です。
桃と言えば桃太郎も有名です。桃太郎を五行説から理解すると面白いです。
鬼門の方角は北東で、十二支で表すと丑寅の方角となります。鬼は鬼門の丑寅の方角からやってくるため丑(うし)の角が生え、寅(とら)の毛皮を履いた姿で表現されます。
それに対抗する桃太郎と家来の猿、雉、犬は、鬼門の反対方向である、裏鬼門の南西の方角から出発します。南西から西に向かって十二支の申酉戌(猿、雉、犬)が並んでいます。
また西の方向は五行では金に相当し、桃太郎の桃、黍団子の黍も五行では金に相当します。よくできていますよね。
日本桃太郎連合会のホームページにとてもわかり易い良い図があります。以下にその図を掲載しリンクを記載しておきます。
日本各地に桃太郎ゆかりの地がありますが、愛知県犬山市の桃太郎神社も有名です。
桃太郎神社の桃の形の鳥居をくぐれば、「悪は去る(猿)、病は去ぬ(犬)、災いは来じ(雉)」というご利益があるのだとか。桃核承気湯を処方する際にこの言葉を時々思い出してみたりします。
呪文みたいで、効果がアップしそうな気がします。
最後に漢字の雑学を。
桃には実が多くつくため、「木」に数の多い事を意味する「兆」を合わせ、多産、生命力を象徴したとされます。
また「兆」の字は亀卜(占い)で亀の甲羅がパシッと割れる形を表しており、二つにきれいに分かれる事の他、占い、予兆、きざし等の神秘を意味します。
このことから桃の漢字は桃の実がきれいに割れること、魔を退ける神秘的な力を持つことを表しているともされます。パカンときれいに割れて鬼を退治する桃太郎も出てきましたしね。
桃の節句に関連してかわいらしいコラムを書こうと思っていましたが、桃太郎の話が登場して、男の子っぽい内容になってしまいました。
桃仁は女性の「血の道症」に頻用される大切な生薬です。上手に漢方薬を使って、桃の花の様なピンク色で元気のあふれる毎日が過ごせるとよいなと思います。桃の花言葉は「チャーミング」だそうですよ。
書いた人
岐阜市 加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学