
鍼の漢字に込められた意味|気を動かし、封じ、感じる治療の本質
鍼の漢字の成り立ち
鍼灸には針ではなく鍼の字を使う事が多いです。今回は「鍼」の字の成り立ちについて解説してみようと思います。
「鍼」は金+咸から成ります。
「咸」はさらに、口+戌に分解できます。
「口」は人の口。あるいは大事なものを入れる箱を表します。
「戌」はマサカリ、斧などの武力を表します。
咸の甲骨文字をみると口+斧から出来ていることが良くわかります。

咸には以下の3つの意味があります。
①皆、ことごとく
人(口)を武力(斧)で制圧する形を表します。皆を悉(ことごと)く制圧することから、咸に皆、悉くの意味があるものと思われます。
②動く事 感動、震撼
戦争の時に斧を持って大きな口を開けて叫ぶ様子を表します。戦争の際は色々なものが動くので、咸に動くの意味があります。戦争が起これば世の中が震撼します。心が動けば感動します。
③封を閉じること 緘、箴、鍼
大事な箱(口)を武力(斧)で守る様子を表します。このことから封じ込めるの意味となります。大事なものを糸で縫い封じる様子が緘。竹で出来た針で縫い閉じれば箴。金属製の針で縫い閉じれば鍼となります。
注:上記解釈には私の推察も含まれているので、気になる人は成書をあたってください。
金属製の針ができる前は、針は竹で作られました。竹製の針を表す漢字が「箴」です。鍼治療に使った竹針や石を表す古い言葉に箴石があります。また針治療の様にチクリと痛いが役立つ言葉を箴言と言います。時代を経て竹が金属となり「箴」から「鍼」となりました。
前述のように咸には動かし、封じ込める意味があるので、「鍼」の字には気を動かし、封じ込めるという意味が込められているとも言えます。また咸は感であり、「感じる」の意味もあります。「鍼」の字に気の去来を感じるという意味を読み取ることもできるかもしれません。
理論も大事ですが、感じることも大切です。
『Don’t think. Feel ! 考えるな。感じろ!』 ですね。

鍼の漢字の成り立ちから色々連想してみました。
鍼は気を動かし、封じ込め、感じるのが大切というお話でした。
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 : 渡邊学