
お屠蘇とブラッディーメアリー──正月の“復活の酒”で二日酔いと邪気を屠る
ブラッディーメアリーはアメリカのお屠蘇?
お屠蘇は無病息災を願ってお正月に飲む薬酒であり、
その語源は「邪気を屠り、生気が蘇る」事とされます。

所変わってアメリカでは1月1日に“National Bloody Mary Day”という呼び名があります。大晦日のドンチャン騒ぎの二日酔いに対して、お正月に迎え酒としてブラッディーメアリーを飲むことからの命名だそうです。
迎え酒のことを英語でpick me up(気付け薬)やReviver(復活薬)と呼び、ブラッディーメアリーは有名なReviver(復活薬)の一つなのです。

無病息災を願う日本のお屠蘇とは少し異なる点もありますが、
お正月に飲む復活の酒ということでブラッディーメアリーをアメリカのお屠蘇としてもよいと思います。
迎え酒と侮るなかれ、ブラッディーメアリーのレシピを見てみると薬酒としてもなかなか理にかなっています。
トマト:胃粘膜保護、食欲増進、解毒作用などがあります。またビタミンやリコピンの抗酸化作用はよく知られています。血の色を連想させる赤色は蘇生、復活のイメージにぴったりと思われます。
ウォッカ、唐辛子、胡椒:体を温めて風邪を追い払う辛温去風作用があります。ロシアの民間療法では風邪のひき始めにウォッカと胡椒を飲むそうです。日本式のお屠蘇の桂皮、丁子、山椒にも似た効能があります。
セロリ:マドラーとしてセロリスティックが添えられます。また日本ではなじみがありませんが、アメリカのブラッディーメアリーの味の決め手はセロリソルトだそうです。セロリの種の粉末を混ぜたお塩で、さわやかな香りと塩気がアクセントになるそうです。セロリの強い香りは漢方的には気を巡らし、イライラを抑え、デトックスする作用があるとされます。
ピクルス、オリーブ:ガーニッシュ(付け合わせ)によってカクテルよりスープに近づきます。適度な油分、酸味、塩味が食欲を呼び起こします。二日酔いで荒れた胃にスープが染みます。
ブラッディーメアリーがリバイバー(復活薬)として愛されているのは伊達ではなく、薬酒として優秀なことがお判りいただけたと思います。
今年のお正月はブラッディーメアリーをお屠蘇にいかがでしょうか。
二日酔いと邪気を屠り、生気が蘇ると思いますよ。
おまけ
迎え酒として有名なコープスリバイバー(死体復活薬)という名前のカクテルに以下の寸言があります。
「元気と活力を与えて死体も蘇らせるが、4杯飲むとまた死体に戻ってしまう。」
仏の顔も三度まで。飲みすぎてはいけません。
お酒は毒にも薬にもなり、「屠」にも「蘇」にもなる。上手な付き合い方が大切なようです。

岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 : 渡邊学



