女性の健康を支える漢方:加味逍遙散(かみしょうようさん)の効果と活用法
女性と漢方:加味逍遙散の使い方
漢方の勉強会で加味逍遙散について講義をさせて頂きました。
その際のスライドを一部抜粋して載せてみます。お医者さん向けのスライドですが、興味がある方は参考にしてみてください。
副作用
最初に副作用の紹介から始めます。
漢方薬には副作用は少ないとされていますが、いくつか有名なものがあります。その内の一つが山梔子による腸間膜静脈硬化症です。
山梔子含有製剤の代表が加味逍遙散になります。漫然と長期処方をせず、適宜検査や処方のローテーションの工夫は必要と考えます。
加味逍遙散を処方する典型的な特徴
加味逍遙散を処方する典型的な特徴をいくつか挙げます。舌証(舌先が小さく赤い)、症状のメモを持参するというのは比較的有名な所見です。
更年期でイライラして、不定愁訴が多い人という少しネガティブな印象をお持ちの人もあるかと思います。
加味逍遙散証を漢方的に書くと肝血虚による虚熱と表す事ができます。
体を潤す血が足りなくなり、虚熱が炎上するのです。なぜ、肝血虚になるかというと、血つまりエネルギーを消費するのが好きだからです。おせっかいで、頑張り屋のやる気のある人なのです。
やる気はあるのですが、いかんせん体格は女性的で体力はありません。そのためやる気と体力が乖離し、余裕がなくなり、空回りをした状態となります。
これが肝血虚による虚熱、つまり加味逍遙散証の病態の一つと言えます。
むやみにイライラして不定愁訴の多い大変な人なのではなく、実際は健気で頑張り屋の人が余裕がなくなって、テンパっている状態であり、根は陽性で良い人が多い印象を受けます。
別な言い方をするとお風呂の空焚き状態、枯れ枝に火が付く、弱い犬ほどよく吠えるなどと言う事ができるかもしれません。
とにかく火となる刺激を抑え、リラックスさせて潤いを与えることが大切です。その手助けになるのが加味逍遙散です。
口訣
処方にあたっての口訣を紹介します。
女性の訴え全般に有効であるといわれます。しばらく加味逍遙散を内服すると訴えのトーンダウンをしてくる事が多い印象です。
加味逍遙散には下剤は含まれていませんが、腸管の過剰な攣縮を抑制する方向に働き、一部の過敏性腸疾患などに有効です。
患者さんの訴えはあれこれ多彩で、なかなか良くなったと言ってくれないことが多いですが、一つ一つの症状について詳しく聴取すると改善していることも少なくありません。
また加味逍遙散証の人は良くなったと思うとすぐに無理をしてぶり返す傾向にあります。
患者さんのペースに飲み込まれず、主治医が適切だと思ったら自信をもって処方を継続することも大切であると考えます。
更年期障害、乳房痛
私は乳腺外科診療をしているので更年期障害、乳房痛の患者さんをよく見ます。
症状が強い場合は時々漢方薬を処方します。更年期障害、乳房痛には女性の3大処方とされる当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸が有名です。
この3処方の中で、乳房痛を有する人には加味逍遙散が良く効く印象を受けます。
乳房痛は胸脇苦満(季肋部の張りのこと:柴胡剤の適応となる症状)の一種で、加味逍遙散の証の一つであると考えています。
加味逍遙散に含まれる柴胡、芍薬、当帰が季肋部の緊張を緩めるため胸脇苦満に有効とされます。
腹症は経絡を参考に考えることもできます。柴胡、芍薬、当帰は肝経、胆経に影響するとされます。
肝経、胆経は胸脇苦満の季肋部を通り、乳房外側、肩も通過しているので、乳房痛、肩こり症状にも有効なのだと思います。
乳房痛を胸脇苦満の一種ととらえて、加味逍遙散を処方し、割とよい手ごたえを感じています。
加味逍遙散の加味方
加味逍遙散の加味方について解説をしておきます。逍遙散に山梔子と牡丹皮が加わったのが加味逍遙散で、それにさらに加味するのでカミカミ逍遥散と個人的に呼んでいます。
一番有名な加味方は四物湯です。うるおいを与えて、熱を抑えるということです。
伝統的に主婦湿疹などの皮膚症状に使用されてきました。
四物湯をベースにホットフラッシュなどの熱症状強い場合は温清飲、動悸がある場合は炙甘草湯、生理痛、生理出血が強い場合は芎帰膠艾湯などもよい組み合わせです。
釣藤鈎の組み合わせも好きです。めまいやイライラが強いときは抑肝散、頭痛があるときは釣藤散の併用は良く効きます。
四物湯と釣藤鈎を含んだ七物降下湯は更年期障害で高血圧気味の人に好い組み合わせです。
加味逍遙散が胃にもたれる人がいます。その場合は解鬱作用のある香附子を含んだ胃薬の香蘇散を加えるとよいです。
のぼせがあるときは気の上昇を引き下げる桂皮が配合された桂枝茯苓丸、苓桂朮甘湯が有名です。
生理痛や腹痛があるときは延胡索を含む安中散もよいです。
もう一つ大事な視点は乳房痛の項でも胸脇苦満の話がでましたが、加味逍遙散は柴胡含有製剤であるという点です。
柴胡剤の一覧を柴胡の含有量順に表にしてみました。
加味逍遙散は下の方にあたり、虚証向けの柴胡剤と言えます。
柴胡桂枝湯、加味逍遙散、抑肝散、補中益気湯はお互いにオーバーラップするところがあります。
黄色で色を付けた生薬がそれぞれの処方の特徴を表しています。
症状としては柴胡桂枝湯が腹痛、加味逍遙散が季肋部、乳房痛、抑肝散がめまい、頭痛、補中益気湯が倦怠感。
ストレスに対するそれぞれの患者の反応としては柴胡桂枝湯が腹痛でダウン、加味逍遙散がイライラを表出、抑肝散がイライラを内に溜め込み、補中益気湯はぐったりダウンしてしまうという印象です。
女性の四大処方
女性の三大処方に女神散を加えて4大処方とすることもできます。
当帰芍薬散23,加味逍遙散24,桂枝茯苓丸25,女神散67を合わせて女性の4大処方234567と呼ぶと桒谷圭二先生が書いていました。
面白かったので参考にしました。構成生薬を図示しました。
共通部分は補気、補血の効能を持ちます。それぞれオーバーラップしない生薬に処方の特徴があります。
当帰芍薬散の沢瀉は利水を、加味逍遙散の柴胡、山梔子、薄荷は疏肝理気を。桂枝茯苓丸の桃仁は活血を、女神散の黄芩、黄連は瀉心、木香、檳榔は理気を意味します。
加味逍遙散の疏肝と女神散の瀉心の違いは難しいですが、腹証では疏肝は季肋部、瀉心は心窩部の詰まりがあります。
大塚敬節先生は加味逍遙散は訴えが多彩なのに対して女神散は訴えが一つのことに対してしつこいという説明をしています。ご参考に。
当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸の女性の3大処方に共通する生薬が芍薬と茯苓です。
最後に
最後に芍薬の花の写真を提示します。芍薬は牡丹、百合と並んで美人の花として有名です。
女性の3大処方に共通して含まれているのも頷けます。
当帰芍薬散が当芍美人として色白美人の芍薬のイメージを独占している印象ですが、3処方に共通して含まれているのです。
か弱い当帰芍薬散に対して加味逍遙散はいらいらした更年期のおばさん用というイメージを持たれていますが、加味逍遙散証も頑張っているか弱い女性なのです。
加味逍遙散は私の好きな処方の一つです。今回でイメージが変わるとよいなと思います。
書いた人
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学