おしりたんていと転失気:映画から学ぶ医学用語
おしりんていと転失気
子供と「おしりたんてい」の映画をみました。お決まりのギャグストーリーですが、所々シリアスで心理の読み解きも中々鋭くて楽しめました。
子供が途中でトイレに立たない丁度良い長さなのもgoodでした。
「おしりたんてい」を見ていて、転失気(てんしっき)という落語が頭をよぎりました。
転失気とは昔の医学用語で「オナラ」のことです。
知ったかぶりの和尚さんが転失気を知らないと言えずに、あれこれごまかしながら、しどろもどろするお話です。少しアレンジして文章にしてみますので、一席どうぞ。
転失気
お寺の和尚さんがかかりつけのお医者さんの診察を受けました。
一通り診察が終わった後、お医者さんが
「ところで転失気はおありですかな?」
と聞きました。
和尚さんは転失気が何かを知りませんでしたが、その場で聞くことが出来ず、ついとっさに
「ありません💦」
と答えてしまいます。お医者さんは
「それは困りましたな。」
とつぶやいて処方箋を書いて帰って行きました。
お医者さんが帰った後、和尚さんは転失気が何なのかが気になって仕方ありません。
インターネットの無い時代なので検索も出来ません。かといって、誰かに聞くのも何となく馬鹿にされそうで恥ずかしいのです。
そこで弟子の珍念さんを呼んで、だまくらかして、それとなく探らせる事にしました。
「珍念よ、お薬をもらってきておくれ。
それと転失気がなくて困っているからついでに探してきておくれ。
転失気が何かは前に教えただろ、忘れたのなら自分で調べなさい。」
さて、転失気なんて教わった事もなく、何だか分からない珍念さんは困りました。
道すがら、近所のご意見番にばったり出会ったので、訊ねてみました。
「すいません。転失気が無くて困っているのですが、お持ちでしょうか。」
ご意見番は知らない事でも知ったふりをするのが仕事です。
「それは困りましたな。
昨日知人に渡してしまい、あいにく今はございません。
また見つけ次第お知らせしますよ。」
とお茶を濁されてしまいます。珍念さんはトボトボとお薬を受け取りに薬局に行き、
「お薬の他に、ここには転失気も置いてありますか?」
と聞きます。すると薬剤師が怪訝な顔をして、
「転失気とはオナラの医学用語ですよ。」
と教えてくれました。珍念さんはハッと気づきます。
「フーム、においますね。お師匠さんもご意見番も転失気が何かをご存じないのでは?」
そしていたずらを思いつきます。珍念さんはお寺に戻って、嘘の報告をします。
「お師匠さん、戻りました。お薬です。
転失気とはお酒を飲む杯(さかずき)のことなのですね。
ご意見番に教えてもらい、箱に入った杯を調達してきました。」
「珍念、ご苦労。そう、転失気とは杯のこと。
葷酒山門に入るを許さずで、酒器は当院には無くて困っておったのだ。」
和尚さんはもっともらしく答えます。しかし内心では・・・。
「ホー。転失気とは杯のことであったのか。お医者さんは酒の催促をしていたのかいな。」
と勘違いします。しばらくしてお医者さんがまた診察にやってきました。
「その後、転失気はありましたかな?」
「はい。御座います。箱に入れてご用意しました。お改め下さい。」
「転失気を箱に入れた?なんだかにおいそうだが、どれ。」
パカッ。!?。
「うん?杯が入っていますな。
医学用語では転失気とはオナラのことですが、仏教用語では杯のことなのですか?」
お医者さんは不思議な顔でたずねます。
和尚さん、一瞬キョトンとしましたが、すぐに珍念に一杯食わされた事に気がつきます。しかしこの場を取り繕わねばなりません。
「ホー。医学用語ではオナラのことですか。
仏門では酒を嫌います。
不浄なものという意味で杯を転失気という隠語で呼ぶのです。」
ともっともらしく答えて切り抜けました。お医者さんが帰った後、珍念を呼びつけます。
「やりおったな!!、珍念‼️」
珍念は答えます。
「屁ー。すいません。失礼こかせていただきました。」プップ。
知ったかぶりは良くないという笑い話ですが、病気になって診察を受ける際に失敗しないための教訓話としても有用です。
①診察を受ける際は分からないことはその場で質問しておかないと後々困った事になる。
②周囲の人は割と適当な事を言うので気をつけること。
③身内には優しくしておかないといざというときに復讐される。
是非ご参考に。
お後がよろしいようで。
書いた人
岐阜市 加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学