桜の花から学ぶ:春の喜びと伝統的な医療の知恵
早咲きの河津桜は満開を迎え、ぼちぼちソメイヨシノも咲き出しそうです。ピンク色の桜の花は春爛漫という言葉にふさわしく、心がウキウキして、何か新しい事を始めたい気分になります。
今年は我が家に入学式があります。世界に合わせた9月入学も議論されていますが、やはり入学式には桜が欲しいなと思ってしまいます。
日本を代表する桜は目と心を楽しませてくれるだけではなく、その樹皮は民間薬としても使用されてきました。その効能は解毒、下痢止め、化膿止め、去痰鎮咳などです。中国では使用されず、日本独特の生薬です。
桜皮 ~十味敗毒湯~
桜皮は十味敗毒湯に配合されています。皮膚科でニキビに処方されることが多い漢方薬です。全身麻酔による乳がん手術で有名な花岡青洲が改良、創薬しました。
レシピは二通りあり、クラシエには桜皮が、ツムラには樸樕(クヌギの樹皮)が配合されています。桜皮は化膿抑制、樸樕は血流改善効果が高いとされます。
また桜皮にはエストロゲン様作用があると報告されています。会社による効果の差については不明ですが、こだわりのある医者は会社の指定をするようです。
十味敗毒湯は発赤、湿潤傾向のあまり強くない小さ目のプツプツした湿疹、痒みに効くとされます。ニキビや花粉による肌荒れ、蕁麻疹や、膿瘍を伴わない乳腺炎などに処方します。
ストレスを抑える柴胡が配合されているので、ストレスで悪化するようなアトピー性湿疹に対して長期服用で体質改善を狙ったりもします。単剤で効果に乏しい場合は黄連解毒湯、越婢加朮湯、葛根湯、消風散などとの併用を工夫します。
桜皮から抽出したブロチンは鎮咳去痰薬としても使用されてきました。ブロチン液は原料となる山桜の確保が難しく製造中止となり、現在はサリパラという後発薬品が販売されています。
桜餅
桜餅、桜湯の独特な匂いはクマリンという成分に由来します。抗菌、解毒作用があり、二日酔いにも良いとの事。
ズブロッカ
ズブロッカというポーランドのウォッカがあります。バイソングラスというハーブを配合したお酒で、強壮酒作用があるとされます。
バイソングラスにもクマリンが含まれているため、ズブロッカは桜餅のにおいがします。芽吹きを思わせる薄緑色のお酒で、桜の匂いがしてほんのり甘い味がするので春先の桜の時期気に入って飲んでいます。
櫻
桜の旧字体は櫻です。嬰の字は貝で作られた首飾りをつけた女の子を表し、小さな子供を意味します。櫻の字は首飾りで飾った女の子の様なかわいらしい花が咲く木という意味です。
嬰の字に含まれる貝は子安貝を指すそうですが、櫻に含まれる貝はやはり桜貝を連想します。子供の頃に砂浜で拾った桜貝の鮮やかな色を今でも覚えています。
書いた人
岐阜市 加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学