手相から読み解く体と心のヒント:西洋医学と漢方の視点
手相と漢方
今回のコラムでは手相と医学、漢方についてまとめてみました。
前半は総論的に手の診察の意義を、後半は実際の見方を挙げてみようと思います。字数は多いですが、医学的根拠は弱く遊びの記事です。くれぐれも真に受けず、洒落と思って適当に読み飛ばしてください。
総論
私が手相に興味を持ったきっかけ
手首で検脈をする際に患者さんの手の平が見えます。ある時、手の平にマジックで不思議な模様を描いた患者さんがいました。何の模様かを聞いてみると宝くじがあたる手相なのだとか。その患者さんは面白く、別な日には恋愛成就の手相を描いていました。
それ以来、チラッと見える患者さんの手相が気になるようになり、独学で勉強を始めました。手相を勉強してみると、患者さんとのちょっとした雑談のネタになり、時には診察に役立つこともあることがわかりました。
まずは総論として、手相が科学っぽく見えるお話を紹介しようと思います。
西洋医学での手指の診察について
手相とは少し異なりますが、西洋医学の診察でも手の所見が大切になる場合があります。医学生時代に習った手に関連する有名な所見をいくつか挙げてみます。
ばち指 肺気腫
スプーンネイル 貧血
手掌紅斑 アルコール多飲
オスラー結節 感染性心内膜炎
Capillary refill time 循環不全
Beau線 化学療法などの大きなストレスでできる横線
川崎病 手の皮がむける など。まだまだ色々あります。
健康状態のいくつかが手に反映されるのは事実の様です。健康状態の良し悪しは運気に直結します。健康であれば手相も運も良く、逆もまた然りと言えるかもしれません。
薬指はギャンブラーの指
示指環指の長さの比率は良く研究されています。薬指は男性ホルモン、示指は女性ホルモンの影響を受けるとされ、薬指と示指の長さの比較で男性的か女性的かが判定できると言われます。
心理学の分野で良く研究されており、薬指が長いと男性ホルモン優位で「英雄色を好む」のように勝負事に強くなり、良くモテるようです。
医学の領域では薬指の短い男性は前立腺がんの罹患が少ないという報告もあります。私の勝手な妄想ですが、結婚指輪を薬指にするのは、性欲に首輪をするためだったりして・・・。
ペンフィールドのホムンクルス
手相と脳の関係を科学っぽく語る上で、よく引き合いに出されます。
ペンフィールドはカナダの脳外科医で、脳の地図をつくりました。この脳内地図を元に構築した人間像がペンフィールドのホムンクルスです。人間の脳内では口と手を司る領域が発達していることが解ります。
ホムンクルスを見つめていると、「手の皺は脳の皺」というのもあながち荒唐無稽では無いような気もしますし、「手は口ほどに物を言う」とも言えそうです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Cortical_homunculus
どうですか。手相を科学した気になってきましたか?
漢方での手の診察はどうでしょうか
井穴、原穴
指先は陰陽の経絡の交わるところで、井穴というツボがあります。井は井戸の意味で経絡を川に見立てた場合の水源、つまり経絡のスタートを意味しています。
また手首回りにはそれぞれの経絡を代表する原穴があります。井穴、原穴は診断的、治療的価値が高く、手の診察は漢方医学では重視されます。
高麗手指針
人体を手に投影して、手への刺激で全身を治療する流派です。投影図が良くできていて眺めていて面白いです。
掌紋医学
手相で病気を真面目に診断しようとする人もいます。日本語で入手できる本では王晨霞の著書が有名です。この本によると130の病気を診断できるとあります。
真面目にみればかなり精密なことができるそうですが、なかなかここまでは。手における臓器の配当図や主要線、副線の見方が参考になります。
手相と医学、漢方が何となくつながっているような気がして、面白くなってきたのではないでしょうか。
各論
漢方医学では脈診、舌診、腹診がありますが、オプションに手相診を追加してみてはどうでしょうか。現在の私の試案を記載してみます。
手相に対する私のスタンス
始めに断っておきますが、手相から病気を診断しようとはしていません。矛盾が多いことも承知の上で、大雑把な健康状態、心理状態の傾向を推察する補助として使用しています。
患者さんの訴えや診察所見と手相が一致すれば自信を持って治療にあたり、解離する様であれば何か見落としが無いか考えるきっかけにします。
例えば、患者さんが調子は良いと言っていても、手の血色が悪く、線も乱れていれば少し慎重に診察をします。逆に疲れて元気がないと言っていても、手相が輝いていれば、手相をネタに少し励ましてみるとか。使い方は色々です。
診察が空いているときの雑談のネタに一番使っていることも白状しておきましょう。
ちらっと見える手相から健康状態や心理的傾向など、文字通り患者さんの手の内を読むわけです。実際の診察室での私のお手並みを披露してみましょう。
左右どちらをみるか
良く使う利き手(右手)は後天的、そうではない反対の手(左手)は先天的な状態を見るという説を採用しておきます。本当は両手を見た方が良いのでしょうが、時間がないので現状を見るという意味で右手を見ています。
色
手の血色に健康、運気が表れます。ピンク色でつやがあるのが健康的で運気も良好です。
汚くくすんだ印象の場合は健康、運気は低迷していると言えます。
赤いまだらは熱や炎症を表し、食べ過ぎ飲みすぎなどの不摂生を考えます。黄連解毒湯や半夏瀉心湯です。
青白い場合は冷え、循環不全、ストレス、貧血、寝不足などを示唆します。加味逍遙散、補中益気湯、真武湯などでしょうか。
母指球の膨らみ
肉体的なスタミナを表し、ふくよかな母指球は体力のある実証で、痩せた母指球は虚証です。実証の人はメタボや心血管系のトラブルが起きる場合があります。瀉剤です。虚証の人は疲れやすく無理が効きません。補剤です。
線の濃さ
気の量を表します。はっきりした線は気力の充実、薄い線は気虚と考えます。
体力を示す母指球の膨らみは短期間では変化しませんが、気力を表す線の太さは結構敏感に変わります。
自分の手の線が薄く感じるとき(気虚)は補中益気湯でも飲んで、少し休んで気力を充実させましょう。
適度な濃さが大事です。濃すぎる場合は気が張って無理がかかっている状態(気逆)ですので少しペースダウンが必要となります。
縦線と横線
すっと伸びた縦線は気の巡りが良い証拠です。逆にごみごみした横線は障害線とも呼ばれ、気の巡りの障害された状態です。漢方用語では気鬱の状態に近いでしょうか。
細かい横線は女性に多く、繊細で心がのびのびできていない状態と考えます。香蘇散や半夏厚朴湯などの理気剤、あるいは柴胡桂枝乾姜等などの優しめの柴胡剤で障害線が薄くなると良いなと思ったりします。
リストカットの痕は大きな障害線と言えるのかもしれません。時間がたって薄くなることを祈ります。
線の数
線の少ない人は小さなことは気にしないおおらかなひと、線の多い人はデリケートで複雑なひととされます。
線の少ない人には構成生薬の少ない古方で短期決戦、線の多い人には構成生薬の複雑な後世方で時間をかけての治療がよいのかもと思ったりしています。
手の大きさ
手の大きい人は手や体を動かす事の好きな人で、細々したことの得意な働き者です。
手の小さい人は口や頭を使うことが好きな人で大胆で人を使う事が得意です。
生活指導では手の大きな人には細かめの指導をしても割と真面目に答えてくれます。手の小さな人には大まかな指導で自由に任せるしかない様な気がします。
主要線を解説します
生命線
気力体力を表し、張り出しが大きいほど元気があり、押しが強い実証で、張りが少ないとおとなしく控えめな虚証です。線が乱れたり、途切れたりすると健康に黄色信号です。
手首側の終点は腎の領域で、細かく分枝しているのは消耗を意味し、お疲れモード。旅行線と間違えやすいです。八味地黄丸などの補腎剤で疲労回復を。
頭脳線
考え方の特徴を表し、長いほど熟考し慎重派で、短いと直感的とされます。横方向に直線だと理系でエビデンス重視、下方向に曲線だと文系で情緒的と言われます。二股は両方の良い所取りです。
私の頭脳線は二股にわかれており、西洋医学のエビデンスも重視しつつ、漢方の不思議な所も好きです。EBM(evidence based medicine)とNBM(narrative based medicine)と見立てても良いかも知れません。
感情線
感情の量を表し、長いとwet(情に厚いが時にしつこい)、短いとdry(さっぱりしていて時に冷たい)とされます。
適度な濃さが大切。濃い人は気が張っている状態で、腹症でいう胸脇苦満に近い印象でしょうか。柴胡剤でガス抜きを。薄い人は気の使い過ぎで心が消耗しています。加味帰脾湯などの安心薬や補気薬で立て直しを。
運命線
自己評価、肯定感を表す。濃いと人生を自分で切り開く人。天下取りの豊臣秀吉の運命線は中指まで伸びていたことで有名です。
薄いと受け身の人。ただし濃い運命線が必ずしも幸せとは限りません。そこそこ生活に余裕があり、平和で苦労がなければ運命線は薄くなります。
逆に自立しなければ生活できない苦労があれば運命線はおのずと濃くなります。どちらが幸せかは人それぞれです。
運命線が濃い人はストレスや高血圧に注意が必要です。
私の患者にすごく立派な運命線の女性がいました。仕事を聞いたら管理職のバリバリのキャリアウーマンでした。
お話を伺うとストレスも結構なものの様で、立派な運命線は苦労のたまものなのかしらと思いました。不眠の訴えがあったので、柴胡加竜骨牡蠣湯を処方したのを覚えています。
運命線が薄い人に対しては自己肯定感を高めて自信を持てるようにする支持的なアプローチが大切でしょうか。
健康に関係ある副線を説明します
放従線
名前の通り自由気ままの線。健康においては食べ過ぎ、飲みすぎ、自堕落な生活などを表す。アルコール中毒や糖尿病など。私は二日酔いの日に赤く出ることがあります。
金星帯
美への感受性が高く、魅力的な人に多いとされ、エロ線やモテ線とも呼ばれる。
アレルゲンへの感受性も高いようで、掌紋医学ではアレルギー体質を表し喘息、アトピーなどに注意と言われます。
色々なことに敏感な人という事でしょうか。線の強さを勘案して柴胡剤や麻黄剤を調節すると良いかもしれません。
結婚線
小指にある有名な線です。別名愛着線。
掌紋医学では乱れた結婚線は性病に、結婚線が無い場合はインポテンツに注意と書いてありました。そういう見方もあるのかと妙に納得しました。尋ねにくい内容なので正しいかどうかは未検です。
健康線、財産線
小指方向に走る線で区別が紛らわしいです。健康は財産ということで、きれいな線は健康も財産も良好。途切れて色の悪い線は健康も財産も低迷としておきます。
技芸紋という別名もあります。一芸に秀でるという事で何か得意なことを伸ばすと良いのかもしれません。
覇王線
運命線、太陽線、財産線の3本がきれいに出た相です。天下取りの相とされます。
吉相とされますが、健康面では注意が必要です。天下を取るような人は多血で無理をする人が多いので高血圧、心臓、脳血管疾患に注意が必要という事です。
ある日の診察室で50代の男性にバシッと覇王線が出ていて、出世の相ですよと盛り上がったことがありました。しかし数か月後の診察では、手全体が赤黒く、覇王線も薄くなっていました。
聞くと仕事が忙しく、付き合いでお酒が増えて、ちょっと疲れ気味なのだとか。黄連解毒湯を処方しました。覇王を維持するのは大変で体に無理がかかるようです。
五指と五行
最後に、五指に五行を配当し、どの指が目立つかでキャラクターを推察する方法を紹介します。五行の配当法は諸説あります。指を走る経絡、五行の順、一般的な西洋手相術の指の意味との整合性から個人的には以下の配当が気に入っています。
親指
金、肺 バイタリティー、闘争力、性的魅力、喜び。起業。
示指
土、大腸 努力、仕事、組織での出世。
中指
火、心包 自己実現、知性、聡明さ、君主、宰相。
環指
木、三焦 自由、挑戦、恋愛。
小指
水、腎、心 コミュニケーション、子宝、財産
参考になったでしょうか。興味を持った方は漢方診察に手相を取り入れてみてください。
「働けど 働けど なおわが暮らし 楽にならざり ぢっと手を見る」と手を眺めた石川啄木。
「1.2.3 ダー!!」と拳を振り上げたアントニオ猪木。
きっと二人の手相は大きく違っただろうと想像します。
手を見て自己分析をし、拳を握りしめて幸せをつかみましょう。
書いた人
岐阜市・加納渡辺病院
外科専門医・漢方専門医 渡邊学