
お米は最高の和漢薬!日々の食事が健康を作る漢方の視点から見たお米の力
お米と漢方
お米の話題が連日世間を賑わしております。今回はお米と漢方について記載をしてみます。
桂枝湯 ~熱いお粥をすすって、薬の力を助ける~
寒気のする風邪に対する漢方薬に桂枝湯があります。シナモンや生姜で体を温める処方です。桂枝湯は優しい処方で、少し効果が弱めです。そのため効果をアップさせるための飲み方が傷寒論に指示されています。
その方法は、「桂枝湯を内服した後、熱いお粥をすすって、薬の力を助ける」というものです。お粥の熱、水分、栄養で体力を上げて病邪を汗から排出するわけです。桂枝湯はお粥をすすることで処方が完成するのです。
お粥は薬です。風邪をひいた時に温かいお粥に助けられた人は多いと思います。

粳米 ~麦門冬湯、白虎加人参湯~
お米の配合された処方もあります。生薬では粳米という名前で、体に潤いをつける生津作用があるとされます。エキス製剤では麦門冬湯と白虎加人参湯に配合されています。
麦門冬湯は乾いた咳が止まらず咳上げをする時、白虎加人参湯は発熱、脱水で口渇がある時の処方です。エキス製剤をお湯に溶かすとトロッとしていて、重湯で薬を内服する感じです。粳米は薬を飲みやすくし、乾燥、脱水を防ぐために配合されています。

膠飴 ~大建中湯、小建中湯~
お米で作った飴を生薬では膠飴(コウイ)と言います。滋養強壮作用があるとされ、点滴が無かった時代は膠飴をお湯で溶かして内服する事で栄養を得た様です。「建中湯」という名前の処方類に主薬として配合されています。建中湯の意味は体の中(胃腸)を建て治す湯薬という意味です。
消化器の手術後に使用される大建中湯や、小児の腹痛や体質改善に使用される小建中湯が有名です。最近では膠飴は腸内細菌の餌になり、腸内フローラを整える作用があるとも言われています。

酒服 ~八味地黄丸、当帰芍薬散~
お米から作られるお酒は血流を良くして体を温め、薬の吸収を早めるとされます。八味地黄丸と当帰芍薬散はお猪口一杯のお酒で内服すると効果がアップするとされています。冷え、痛みに対する処方とお酒は相性が良い様です。
しかしお酒の飲みすぎには注意が必要です。薬としてお酒を服用する場合はお猪口一杯程度まで。酒は百薬の長でもあり、百厄の長でもあります。

脚気 ~白米偏重が原因のかつての国民病~
ビタミンB1不足が原因で、足が浮腫み、心不全を来たす病気です。江戸から明治にかけて、白米に偏った食事による脚気で多くの人が命を落としました。最終的には麦飯による食事療法が奏効しましたが、漢方医は脚気に対して色々な漢方薬で対応しました。
その時代の名残で、現在のエキス製剤の中にも脚気を適応病名にもつ漢方薬がいくつかあります。九味檳榔湯、越婢加朮湯、八味地黄丸、呉茱萸湯、当帰芍薬散などです。
現在でも高齢者やアルコール依存症患者の浮腫みに脚気が隠れていることがあります。現代の治療法はビタミンB1の補充ですが、浮腫みがすっきり取れない場合に、私は仕上げに八味地黄丸や当帰芍薬散を追加したりしています。
高齢者のむくみは漢方単品ではなかなかうまくいかないことも多いですが、何となく足が軽くなったという人が多い印象です。

陳倉米 ~薬としては新米より古米が上~
お米を薬として用いる際は新米よりも古米の方が消化吸収が良いとの記載があります。漢方では長く倉庫に保管した古米を陳倉米と呼んで薬に用いたそうです。古米に対する風当たりが強いですが、古米も消化吸収が良いと考えれば、有難味が増すと思います。

お米と漢方に関連した雑学を書いてみました。お米は主食であり、薬としても重用されてきました。以前のコラムでも記載した通り、お米は氣力の源でもあります。もっと大切にしなければいけませんね。

- 書いた人
岐阜市・加納渡辺病院 外科専門医・漢方専門医 : 渡邊学